価値観や信念の押しつけが
パワハラにつながる

 イライラした時は、自分の信念や価値観に気付くチャンスだと言えます。人は自分の期待が裏切られた時に、怒りという感情を覚えるからです。逆に言えば、「~すべき」という信念や、他者に「~してほしい」という期待をほとんど持っていない人は、怒りを感じる機会も少ないのです。

 では、すべての信念や期待を手放せばいいのか、と思うかもしれませんが、その必要はありません(もちろん、極端な信念は手放した方が人生を楽に生きられることもあります)。私はむしろ、個人の信念や価値観、特に仕事に対するものは、生活に支障がないものであれば大切にしてほしいと思っています。自分がどういった信念を持っているか、価値観を大切にしているかを知って、まずは自分自身を認めてあげるのです。

『パワハラ上司を科学する』書影津野香奈実著『パワハラ上司を科学する』(筑摩書房)

 というのも、個人が持つ信念は、その人がこれまで組織内で昇進したり、仕事をうまくこなしたりするのに役立っていたものであるはずだからです。それを否定してしまうことは、自分自身の仕事のやり方・生き方を否定することになりますので、その必要はないと思います。

 しかし、その信念や価値観を人に押し付けることは避けるべきです。自分がそれを基に成功を収めたとしても、部下にとっても「正解」になるとは限りません。

 パワハラ行為者(上司)のほとんどが、価値観や信念を一方的に部下に押し付けたがために、訴えられています。

 自分の価値観は大切にしてほしいのですが、「部下にとって、その価値観が正解かどうかはわからない」「自分が大切にしている価値観を、相手も大切にしているとは限らない」ことを常に念頭に置くことが大事です。