アクティビズムの隆盛で株主対応コンサルティングなど企業防衛ビジネスの引き合いは強い。ここへきてIRジャパンが「マッチポンプ」疑惑で凋落し、ビジネスの受け皿となるべくさまざまなプレーヤーが新規参入している。現状ではIRジャパンが圧倒的な業界最大手だが、その“1強体制”を揺るがす新参者は現れるのか。特集『マッチポンプ IRジャパンの正体』(全6回)の#5は、その最前線に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
メガバンク系の信託銀行が逆襲
凋落するIRジャパンの買収候補は?
「クライアント企業からの引き合いが強く、例年以上に多忙だ。とにかく人手が足りない」
6月の株主総会シーズンを前に、メガバンク系列の信託銀行幹部は、そんなうれしい悲鳴を上げる。
信託銀行の主要ビジネスの一つに、証券代行業務がある。株主名簿の作成管理、総会招集通知の発送、議決権行使書の集計など株主総会に関わる事務全般を株主名簿管理人として手掛け、株主総会を裏で支えるいわば“黒子役”の仕事だ。
例年、株主総会が集中する6月は、証券代行機能を持つ信託銀行の書き入れ時というわけだが、近年はそうした事務にとどまらない仕事が増えている。それが投資家や株主対応のコンサルティングや委任状争奪戦(プロキシーファイト)のアドバイザリーといった業務だ。
2015年にコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が策定され、上場企業は株主を意識した経営や資本政策、ガバナンスの向上が強く求められるようになった。足元では株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業に対する風当たりも強い。
アクティビスト(物言う株主)による株主提案や企業同士の敵対的買収も増加傾向だ。「PBR1倍割れを放置したままの経営陣は、いつ株主から解任を突き付けられてもおかしくない。日本の上場企業でも、そんな緊張感が広まりつつある」。冒頭の幹部はそう話す。
百戦錬磨のアクティビストに対峙する企業の“守護神”として、この10年間で急成長を遂げたのが、アイ・アールジャパン(IRジャパン)だ。「委任状争奪戦でほぼ負けなし」を豪語し、実際に近年、株主と対立した東京機械製作所や天馬、フジテックなどをにぎわせた多くの紛争案件で、IRジャパンは企業側の防衛アドバイザリーを受託している。
だが昨年、元副社長のインサイダー取引容疑で証券取引等監視委員会の強制調査を受け(『【スクープ】株主総会の“参謀役”アイ・アールジャパンに強制調査!「上場規程に抵触」の衝撃証拠を入手』参照)、さらに投資ファンドに敵対的買収をそそのかしたマッチポンプ疑惑(『【スクープ】IRジャパン衝撃の「買収提案書」入手、東京機械の買収防衛でマッチポンプ疑惑』参照)まで浮上。IRジャパンのガバナンス上の欠陥が明らかとなり、「クライアントの新規獲得がままならない」(IRジャパン関係者)という。
そもそもIRジャパンが防衛アドバイザーに就いた天馬にしろフジテックにしろ結果的に敗戦といえる状況で、「委任状争奪戦でほぼ負けなし」の看板も疑わしい状況だ。
こうしたIRジャパンの凋落を商機とばかりに、これまで仕事を奪われる一方だったメガバンク系の信託銀行らが巻き返しを図ろうとしている。さらに四大会計事務所の一角を成すアーンスト・アンド・ヤング(EY)の日本事業を統括するEYジャパンのコンサル部門や外資系コンサル、新興勢力が続々と参戦している。業界のパワーバランスが微妙に変化し、人材の獲得競争も激化しつつある。
さらにはIRジャパンの買収観測が浮上していることも分かった。業界の1強体制は崩れるのか――。その真相を次ページで追う。