3月に公表された第三者委員会の調査報告書は、マッチポンプだけでなく、企業の守護神を自認するIRジャパンの数々の裏切り行為を明らかにした。東証プライム上場の天馬では、会社側から株主側に寝返り、会社から預かった株主情報を不適切に管理していた。顧客企業に対して株主側に付く「寝返り」を示唆し、契約金を2000万円に上げる謀略も明らかになった。特集『マッチポンプ IRジャパンの正体』(全6回)の#2では、ダイヤモンド編集部が新たに入手した独自情報や報告書などを基に、IRジャパンの正体を暴き出す。(フリーライター 村上 力、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
アクティビストへの恐怖心をあおり
海外ファンドに日本投資を呼び掛け
「アクティビスト、プライムブローカー、FA(ファイナンシャルアドバイザー)、ストラテジックバイヤー、PE(プライベートエクイティ)ファンド……彼らは一連のチェーンとして、ほとんど同じ大学だとか同じコミュニティーで、常に会話していると思っていただいた方がいいと思います。で、もう一つ嫌なのは、一部の年金とか株主も、アクティビストを応援しているんですね」
「結構、皆さん方は囲まれてるんですよ。上場会社って、いろいろなチェーンの中で、一つのアクティビストだと思っていたら、なんとインベストメントコミュニティーの中でグルになっている人間が、かなり集合体のようにいっぱいいてですね。それが自分の利害関係で押し寄せてきてるっていう。こういう状況のチェーンになってるっていうことは、ぜひ今日ご理解いただければ、これでもう今日の半分以上終わりです!」
2019年12月3日、最大1500人を収容できるパレスホテル東京の大宴会場に、べらんめえ口調が響き渡っていた。登壇者はIRジャパン社長、寺下史郎氏(現IRジャパンホールディングス社長)だ。
この日、IRジャパンは「アクティビスト対応のリスクと適切なソリューションを探る~本格的に上陸したアクティビストへの対応と外為法改正を睨んで~」と題するセミナーを開催。会場は上場企業のIR(インベスターリレーションズ)担当者で満席となっていた。
寺下氏に続いて登壇したのが、三浦法律事務所からIRジャパンに出向している今戸智恵弁護士だ。スタンドスティル条項といったアクティビストとの停戦・和解が、「総会屋への利益供与と非常に似ている」との自説を展開する。「アクティビストは総会屋」とは明言しないものの、全体を通して聴衆にアクティビストが総会屋のような存在であると印象付ける内容であった。
こうして寺下氏らがアクティビストへの恐怖心をあおる一方、IRジャパンの米ニューヨーク支店は、海外ファンドにアクティビズムに乗じた日本投資を呼び掛けていた。
「We feel that now is a good time to let you know about the progress on Corporate Governance, Activism, and M&A in Japan.」(今こそ、日本におけるコーポレートガバナンス、アクティビズム、M&Aの進展についてお知らせする良い機会だと感じています)
セミナーの2カ月前、ニューヨーク支店の社員が現地のファンド向けに送信したメールの一部で、添付された資料には、LIXIL、JR九州(九州旅客鉄道)、川崎汽船など、アクティビストが介入した案件の動向が記されている。
アクティビストを投資勧誘したわけではない、という言い訳がIRジャパンからあるかもしれない。
だが、前述の通り寺下氏は、アクティビストはインベストメントコミュニティーにおいてチェーンのようなつながりを有しているという認識を持っている。海外ファンドへのこうした投資勧誘が、アクティビストの追い風になることは百も承知のはずだ。
この頃には、IRジャパンには企業と株主の対立で「漁夫の利」を狙うマッチポンプ体質が芽生えていたと考えられる。
それから約1年後、IRジャパンはさらに露骨な謀議を巡らす。最低でも2000万円の契約金を払わなければ、敵対側に付き得る――驚愕の提案を、顧客に提示しようとしたことが発覚したのだ。