セイコー、シチズン、カシオ 時計“御三家”の黄昏#5Photo:SOPA Images/gettyImages

ロレックスをはじめとする輸入高級時計の価格が高騰し、時計愛好家が「ロレックスマラソン」を繰り広げている。その一方で日本勢は腕時計の「ハイパーインフレ」に付いていけず、グローバル市場におけるプレゼンスの低下が顕著になっている。しかし業界関係者は「海外高級時計に対抗できる唯一の国産ブランドがある」と口をそろえる。特集『セイコー、シチズン、カシオ 時計“御三家”の黄昏』(全8回)の#5では、輸入高級時計のハイパーインフレの実態に迫るとともに、玄人も認める国産ブランドの正体を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

海外高級時計“ハイパーインフレ”でも需要は落ちず
ファンは「ロレックスマラソン」を繰り広げる

「ロレックスマラソン」という言葉をご存じだろうか。昨今、時計ファンの間で行われているこの“長距離走”は、42.195kmを走るマラソンとは違ってゴールが見えないため、苛烈を極める。

 高級腕時計のロレックスは、ここ数年極端な品薄となっており、販売店に行っても欲しい時計の在庫が払底していることが珍しくない。そこで、少なくない“ランナー”があちこちの販売店を巡り、同じ店に足しげく通ったり、時には本命より古いモデルを買ったりするという。「スイス高級腕時計の販売店員は、買った直後に高値で転売する“転売ヤー”を警戒している」(時計業界関係者)ため、店員に信頼される必要があるためだ。中には、アルバイトを雇って開店前から店に並ばせるランナーまでいるという。

 こうして、時間とお金をかけてお目当ての時計を手に入れると、見事「完走」となる。腕時計を購入するのに、ランナーがこれほどまでの努力を惜しまないのは、その時計に価値があるからに他ならない。ここ数年で海外高級時計は値上がりを続けており、「21年に300万円台だった腕時計が、2年でほぼ倍額の600万円を超えたといった話は珍しくない」(前出の時計業界関係者)という。しかし、それでも需要が衰えることはなく、今もランナーはロレックスを求めて“走り”続けている。

 一方で、セイコー、シチズン、カシオといった日本の時計メーカーは、この「ハイパーインフレ」ともいえる価格高騰の動きに追随できていない。このままでは、日本勢と海外勢のブランド力の差は開くばかりだ。

 しかし複数の業界関係者は、「海外高級時計に対抗できる唯一の国産ブランドがある」と口をそろえる。いったいどのブランドだろうか。

 海外高級時計のハイパーインフレの実態と、それに対抗し得る国産ブランドの正体について、次ページ以降で詳しく見ていこう。