セイコー、シチズン、カシオ 時計“御三家”の黄昏#7Photo:Bloomberg/gettyImages

コロナ禍からのV字回復を謳歌するシチズン時計が、今年に入り最大400億円もの自社株買いに踏み切った。これには、本来であればもろ手を挙げて賛成するはずの投資家からでさえ「こんなことに巨額の金を使っていていいのか」と疑問の声が上がるなど、株式市場は騒然とした。特集『セイコー、シチズン、カシオ 時計“御三家”の黄昏』(全8回)の#7では、本業の時計事業や事業の多角化などシチズンのビジネス構造を分析しながら、巨額の自社株買いに走った背景と、業績好調の裏にある、“危険”の正体を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

400億円の自社株“爆買い”
「シチズンショック」に市場騒然

 今年2月、「シチズンショック」が株式市場を騒然とさせた。時計メーカー大手のシチズン時計が、最大400億円もの自社株買いを発表したのだ。これは、発行済み株式総数(自己株式を除く)の25.61%にも及ぶ。

 シチズンは、自社株買いの目的として、株主還元の強化や資本効率の向上などを挙げている。2022年度第3四半期の決算説明会で、実施に至った背景として「当初想定よりもコロナ禍からの業績回復をスピーディーに進めることができた」ことや、「事業の回復に手ごたえが感じられている中で、世界的にもコロナ収束が見えてきており、今後大きな将来不安はないものと考えた」ことがあるとしている。

 しかし、株式市場からはこの“爆買い”を疑問視する向きが少なくない。「こんなことに巨額の金を使っていてよいのか」といった厳しい指摘が上がっているのだ。

 なぜ、これほど大規模な自社株買いに踏み切ったのか。

 次ページでは、本業の時計事業や事業の多角化などシチズンのビジネス構造を分析しながら、巨額の自社株買いに走った背景と、業績好調の裏にある、“危険”の正体を明らかにする。「スピーディー」を自負する業績回復に死角はないのだろうか。