血栓を予防するメカニズムとは

 研究では、13頭のヒグマから夏と冬の2回にわたって血液を採取し、夏と冬の間での血小板タンパク質レベルの比較を行った。また、慢性的に体を動かせない脊髄損傷患者では血栓リスクが上昇しないことが知られていることから、脊髄損傷により慢性的に動けない患者とその対照となる健常者からも血液を採取して調べた。

 その結果、冬眠中のクマでは、止血作用のある血小板でのタンパク質の発現が、通常のレベルより低下していることが明らかになった。特に発現の低下が著しかったのは、ヒート(熱)ショックタンパク質47(HSP47)と呼ばれるタンパク質で、活動中のクマと比べた冬眠中のクマの血小板では55倍も低下していた。このことから、HSP47の発現低下が、何カ月も眠りにつくクマの体内での血栓形成を防いでいる可能性がうかがわれた。そこでPetzold氏らは、HSP47を発現しないマウスを作成して血栓形成能を調べた。その結果、HSP47を発現しないマウスでは、対照と比較して血栓形成頻度が大幅に減少することが確認された。さらに、慢性的に動けない患者と動けない状態に置かれた健常者でも血小板でのHSP47の発現低下が確認された。

 Petzold氏は、「この研究結果は、血栓のできやすい状態にある人での血栓形成を予防する、新たな治療薬の開発につながる可能性がある」と期待を寄せる。同氏は、「今後は、HSP47がどのようなメカニズムで血栓を予防するのかを詳しく研究していきたいと考えている」と話している。

 血栓予防薬としては、以前よりアスピリンなどが使われている。しかし、Petzold氏によると、そうした抗血栓薬には出血リスクが高まるなどの副作用があるため、より高い効果と安全性を有する薬剤を探求し続ける必要があるという。同氏は、「われわれは、人の体内に生まれつき備わっていて、必要に応じて利用できる『抗凝血薬』が、臨床上で未解決のこのニーズに取り組む際に、一助になると考えている」と述べる。

 アルゼンチン国立医学アカデミーで血液凝固メカニズムを研究しているMirta Schattner氏は、「この研究は、自然を観察することが、ヒトの生物学を学ぶ良い方法となり得ることを明示している」との見方を示す。同氏はまた、「糖尿病やさまざまながんのような慢性疾患も血栓リスクを高める可能性がある。熱ショックタンパク質がそのような疾患においても血栓形成に重要な役割を果たしているのかどうかも、今後、検討していくべきだろう」と話している。(HealthDay News 2023年4月14日)

https://consumer.healthday.com/stroke-2659761194.html

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