知識が集まってくると、その知識がさらに異なる知識を創発し、いっそう早く変化が起こります。お金はお金のあるところに集まるように、知は知のあるところに集まるのです。
人類の知能をも超えるかしこい人工物が生まれる。そうして爆発的にテクノロジーが進歩していく未来に対して、不安まじりの問いを持っている人も少なくないはずです。
「テクノロジーが進歩し続けた未来で、人類は駆逐されてしまうのではないか」と。
ただその過程を整理して考えてみると、悲劇的な未来を憂うより、いますぐにでも温かい未来に向けて歩みを始めるほうがいいことがわかります。
2030年代、AIが「人類以外」の
動物に追いつく
シンギュラリティが2045年ごろに到来するのであれば、それより手前に起こると予測される別の出来事があります。
それは「AIが自律性を獲得し、人類以外の動物の知性に追いつく」というタイミングです。2045年に、AIが人類の脳と同等以上の探索、学習、創造をともなう情報処理ができるようになるのであれば、2030年代には、犬や猫の脳を超える自律的な判断や情報処理をAIがしていてもおかしくはありません。
シンギュラリティの一部は
すでに到来している
ChatGPTの登場で、「もうシンギュラリティが到来したのではないか?」と感じている人もいるかとは思います。ChatGPTは「GPT-X」(Xはバージョンの数字)などの名前がついた大規模言語モデルを利用したAIチャットです。その「GPT-X」は、現時点では生き物のような自律性を持たず、その進化にも人類の力が必要です。将来、「GPT-X」が「GPT-X+1」を自律的に開発できるようになったら、それはシンギュラリティの到来と言えるでしょう。
しかし、そこにはまだ、かなり大きな変革が必要です。なぜなら、いまの大規模言語モデルはどんなに優秀に見えても自律性はなく、入力に対する「一般化されたパターンの再生」という枠を超えていないためです。ただ「AI自体が、自らよりもかしこいAIを生み出し続ける」というプロセスの一部分だけ見れば、コンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo」が「囲碁の打ち方の改善」という限定的な領域において、すでに実現しています。
AIがAIと対局を続けた結果、人類よりもかしこく囲碁を打てるようになりました。
それまでのAIは、人類と対局したり、人類が積み重ねてきた過去の棋譜(きふ)を学習したり、適切な打ち手を判断するための「評価関数」を人に与えられたりして強くなろうとしていましたが、「AlphaGo」は学習プロセスを変えました。人類から学ぶことをやめ、AI同士で膨大な対局を重ねた結果、人類を超えたアウトプットを出せるように進歩した。つまり、「AIが自ら学び、改良する」という、かなり重要な技術的進化を実現したのです。
アルゴリズムの改変をAIが自ら行う(自らの構造を自らの手で改変する)わけではなく、あらかじめ決められたプロセスでの学習という限定的な領域ですが、適切な評価関数を造る能力は人類を超えたと言えます。今後は、このような進歩がますます加速していきます。