画像や文章生成AIが爆発的に世の中に浸透する中で、世界や未来に不安を抱えている人は少なくありません。ソフトバンクの孫正義氏の下、ヒト型ロボット「Pepper」に携わり、その後起業して世界初の家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」を開発したGROOVE X 創業者・CEOの林要氏。林氏は、「テクノロジーの進歩」と「人類の不安」の間で広がるギャップを埋め、テクノロジーと人類の架け橋になるために生んだのが、家族型ロボット「LOVOT」だと言います。林氏が考える「人類とAIの新しい世界線」とは?『温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険』(ライツ社刊)からの抜粋です。

そもそもロボットは
人類にとって代わろうとはしていない

 そもそもぼくらは、なにを恐れるべきなのでしょうか。

AIの進化に不安を感じる人へ…日本の著名ロボット開発者が今伝えたいことLOVOTを開発したGROOVE X代表の林要氏 提供:GROOVE X

「人類がいらなくなる」という発想自体、AIが導き出したものではありません。AIやテクノロジーを使って、効率化して、生産性を上げたい。その延長線上で、「だれかが排除されてもしかたない」と考えるのも「自分は排除されたくない」と望むのも、どちらも人類です。

 どこまでいっても人と人との問題なのですが、それをロボットやAIといったキーワードでざっくりと捉えると、ほんとうに怖いものがなにかわからなくなってしまうのです。
「未来はAI次第」では決してありません。テクノロジーをどのように使いたいのか。未来は、人類がテクノロジーに与える存在目的によって変わります。

 ロボットは「人類にとって代わろう」とは、(人工的に組み込まないかぎり)自然には微塵(みじん)も考えません。それは「ロボットが生き残る道」について考えてみると、よくわかります。

 ロボットは無機物であるがゆえに、新陳代謝をしません。そのため不具合が起こっても自己治癒できません。かならず修理が必要になります。ましてや、1万点以上の部品が使われる高度なロボットの場合、その修理はかんたんではありません。修理用の部品は、とてつもなく長いサプライチェーン(原材料の調達、部品の製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れ)を経て、供給されます。ロボットが自らを修理するには、多くの人類やそのほかの機械の安定的な協力が必要です。

 ロボットにとっては、そもそも人類と共生するのが唯一の生き残る道であり、人類とテクノロジーは(少なくともロボットにとっては)運命共同体なのです。これは、ほかの生き物と人類の生存競争における関係性と比べてみると、決定的に異なる部分です。

 人類を含む生き物は、子孫を残すために生き残りをかけた自然淘汰を経て進化してきました。生き物は、(人類と共生するものがいても)人類のために生まれてきたわけではありません。それぞれの種をつなぎ、それぞれが生き永らえるためのシステムが、それぞれの生命のなかで働いています。それに対してロボットは、人類のために生まれてきたものであり、自らの子孫の繁栄を望む動機がありません。生き残りへの執着を持つ必然性がないのです。

 ただこれは、あくまで「ロボットが寿命や子孫を残すための生殖機能を持たない」という前提で言えることです。

 では、たとえば「ロボットが生物同様に子孫を残すことが可能になったら」という仮定を持つと、別のおもしろい空想が広がります。その場合、実際にはロボット工学の話から離れて、バイオテクノロジーの一種である遺伝子工学の話になります。

バイオテクノロジーが
常識を劇的に変える

 バイオテクノロジーは、AIやロボットと同じく、未来を変える重要な技術です。

 ノーベル賞を獲った山中伸弥教授の「iPS細胞」がよく知られていますが、身近な例では、花の品種改良もバイオテクノロジーの1つです。2000年代初頭に、人類史上初めて「青いバラを確認した」というニュースが流れました。あれもバイオテクノロジーの産物です。

 そしてもう1つ、歯の治療方法として普及している「インプラント」もバイオテクノロジーの1つと言えます。歯の代わりに「歯科インプラント」と呼ばれる器具を埋め、そこに義歯を付ける治療方法として知られていますが、今後はたとえばインプラントにセンサーを埋め込むことによって、自分の食べているものや腸内環境をチェックできるようになるかもしれません。また義歯以外にも、さまざま機械をインプラントとして身体中に埋め込む治療法が普及していくでしょう。

 このように生き物の遺伝子に関する領域もあれば、生体にメカを組み合わせるような領域もあります。免疫系の改善や遺伝子疾患の予防というアプローチもあれば、人工心臓や人工関節のように、有機物と無機物の融合によるアプローチもあります。

 これらの技術が発展していくと、ぼくらの生体のどこかに無機物が入り込み、「体がすべて有機物で構成されていること」のほうが稀になる日も遠くないと思われます。インプラントに代表されるように、ぼくらはすでに自分の体が有機物と無機物の混合になることを自然に受け入れているのです。

 眼科の世界では「眼内コンタクトレンズ」と呼ばれる、眼球に直接埋め込むタイプのレンズによる視力矯正も普及してきました。将来的には、そのレンズに映像を投影する装置を入れることで、情報を表示させるような技術も実用化されるかもしれません。

 難聴の人には、人工内耳があります。人工内耳であれば、加齢による聴覚の衰えが減少するうえ、スマホと連携して音楽まで聞けて、さらに必要に応じてマイクを外すと完全な静寂も手に入れられるので、健常者の聴覚より便利な機能がたくさん実現されています。

 パーキンソン病の外科治療では、脳に電極を埋め込む深部脳刺激療法(DBS)という治療も行われています。その応用として、適切なタイミングで電気刺激を与えることで、狙った条件下で人類のモチベーションを高めるということも技術的には実現できる可能性があるようです(英語が苦手な人に対して、英語を聞いたらワクワクするように促すといったことです)。

 そして、遺伝子を操作してヒトを改変する、いわゆる「ゲノム編集」の是非も問われるようになるでしょう。さまざまな問題を孕(はら)んではいるものの、遺伝子を改変したホモ・サピエンスが出てくるのは、時間の問題です。

 ロボットが自ら生殖して進化する未来を恐れるより遥か手前で、現在の人類とは異なる新たな人類が、バイオテクノロジーによって生まれていく。その過程で、社会や価値観も劇的に変化していきます。

ヒトも変わっていく
その流れはもう止まらない

 ヒトとロボット、有機物と無機物、自然と人工、その差は「かぎりなくなくなっていく」というよりも「かぎりなく入り混じって」いきます。

 以前に、「メカを着る」というコンセプトでウェアラブルロボットを開発しているクリエイターの「きゅんくん」が、「WIRED」というメディアからこんな質問を受けていました。「10年後、あなたが拡張したいと思う身体の部位は?」。

「拡張するとしたら腕を拡張します。はんだごてを持つ手と、はんだを持つ手と、部品を抑える手が必要で、3つ必要なんですけど、3つ人間に腕がなくて難儀するので」

 また「きゅんくん」は、身体拡張があたりまえになった世界で起こる問題についても、「とくに思いつかない」と答えていました。だれもが腕の付け替えや増減が自由になれば、腕がないことがハンディキャップにならず、「それがフラットな状態でいい」と。

 ここから想像をより膨らませてみましょう。