海運激変! トランプ関税下の暗夜航路#9Photo:Anna Fomenko/gettyimages

“海運バブル”後も高水準の給与が続く海運業界。昇給スピードも加速し、年収1000万円台に早期到達する社員も少なくない。加えて業界大手の日本郵船や商船三井は、中期経営計画に基づく事業拡大に向け、中途採用を大幅に強化している。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』の#9では、大手海運会社の待遇と人事を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

給与水準アップの裏側で
大手2社は中途採用を拡大

「コロナ後から中途採用を増やしている。中期経営計画で定めた事業計画を達成するために必要な人員も増えているからだ」

 日本郵船人事グループの吉川聡チーム長がそう語るように、現在同社では中途採用を拡大している。

 コロナ禍で沸き起こった“海運バブル”により膨大なキャッシュを手にした日本郵船。中核の海上輸送事業から、アンモニア燃料や洋上風力発電関連の新規事業まで、2026年度までに総額1.4兆円の投資を計画している。この事業拡大に伴い、これまで以上に人材の拡充が不可欠となっているのだ。

 この動きは日本郵船だけにとどまらない。業界2位の商船三井も同様だ。

「35年度のグループ目標を達成するためには、量も質も既存社員だけでは賄い切れない」と商船三井人事部の白井秀忠チームマネージャーは明かす。同社も多様なスキルを持つ人材の採用に力を入れているようだ。

 こうした背景から、海運大手2社は従来の採用手法を見直し、より多くの中途社員の取り込みにかじを切り始めている。

 だが、海運業界の採用方針には、ある“暗黙のルール”がある。

 それは競業の人材を採用しない慣行だ。取引先の情報流出や過去の貨物運賃談合問題への懸念から、同業他社間の転職はほぼタブーとされている。そのため近年、大手2社は異業種の中途採用を積極的に行っている。

 そんな海運業界だが、魅力の一つに高い給与水準がある。帝国データバンクの調査によると、23年度の上場企業の業種別平均年収で海運業は1008万円で、2位の証券・商品先物取引業(862万円)を大きく引き離し、過去最高を記録した。日本郵船では、“海運バブル”以降、平均年収が2022年3月期の1082万円から24年3月期には1379万円へと約1.3倍に急騰し、高止まりが続いている。

 実際に海運会社に入社すると、どのようなキャリアパスを経験し、どの年次でどれほどの待遇になるのか。次ページでは、日本郵船のキャリアパスと役職ごとの給与テーブル、キャリアパスを公開。海運業界の知られざる待遇の実態に迫る。