前回は、長期投資を実践する際に基本となる資産の一つである株式についてお話ししました。資産形成のメイン・エンジンである株式はリターンが高い半面、リスクも高いため、最近は機関投資家でさえ二の足を踏んでいます。しかし、個人投資家は機関投資家と違って規制や会計基準などに縛られないため、じっくり腰を据えた長期戦が適していること、そしてみんなが株式を敬遠している今こそ投資を始める絶好のチャンスかもしれないと指摘しました。今回は株式と並び長期投資の基本となる資産である債券について説明します。

債券は資産形成の安定装置

 債券投資というと何だか難しく聞こえますが、実はお金を貸すことと同じです。債券の中でも、貸す相手が国の場合は国債、企業の場合は社債です。債券は銀行預金と同じように、貸している期間は一定の利子を受け取ることができますし、期日がない株式とは異なり、債券の発行体が期日に元本を返済してくれます。そして万が一、発行体が破綻した場合でも債券は返済順位が株式より高いため、回収率は相対的に高くなります。

 また、株式と同様、債券も時価で取引されますが、前述のようにたいてい最終的には元本が返ってくるため、債券は時価が額面から大きく乖離することは少なく、リスクが低いと言えます。

 しかしながら、投資の世界では、リスクが低いことはリターンも低いことを意味します。実際、米国の株式と債券を代表するインデックスの1976年以降の年率リターンを見ても、株式(S&P 500指数)の約11%に対し、債券(バークレイズ米国総合指数)は約8%と株式より低いことが確認できます。

 このように債券の特徴はリターンが低い半面、安全性が高いことですが、それだけではありません。債券は株式との相性が非常に良く、パフォーマンスは株式が良いときに悪く、株式が悪いときに良くなるという相互補完的な逆相関関係にあるため、株式と組み合せるとポートフォリオのリターンが安定します。したがって、資産形成においてはメイン・エンジンである株式に対し、債券は安定装置と位置づけることができます。

 また、債券の中でも国が発行する国債は信用力が抜群のため、安全資産としては別格の存在で、危機などの際に高いリスク・ヘッジ機能を発揮します。実際、リーマンショックのあった2008年は株式や不動産はもちろん、社債や新興国債券等の信用リスクがある債券もリターンが軒並み大きなマイナスとなる中、信用リスクが低い日本国債と先進国国債(為替ヘッジ付)はプラスのリターンを確保しました。これは危機時には投資家が少しでも安全なところに資金を逃がしたいと考え、真に安全と思われる資産へ資金が殺到する「質への逃避」と言われる現象です。このような「別格の安全資産」としての特徴もあり、債券の中でも特に国債は安心して資産形成を行うためにはなくてはならない資産なのです。

国債の安全神話も揺らいできている

 ところが、リーマンショック後は各国が不況に対処するため、一斉に大規模な財政出動に踏み切った結果、債務残高が大幅に増加し、欧州ではギリシャなどいくつかの国で債務がコントロール不可能な水準まで膨らみました。ギリシャに端を発した欧州債務危機では、債券の一部が債務不履行となり、投資家は大きな損失を被りました。しかも、危機はイタリア、スペインにも飛び火し、これらの国の国債も価格が暴落しました。このようにリーマンショック後の世界では先進国の国債といえども安全とは言えなくなってきたのです。一方、先進国国債の代表的なインデックスであるシティグループ世界国債インデックスには、ギリシャ(2010年6月除外)、イタリア、スペインなど財政状況が非常に悪い先進国の国債もある程度組み入れられています。したがって、当該インデックスをベンチマークとしているパッシブ運用(ベンチマーク通りの結果となるように運用する方法)は、自動的にこのような国債に投資をしてしまうことになります。