「わいせつ教員対策新法」をジャニーズ事務所も見習うべき

 さて、「わいせつ教師」とジャニー喜多川氏の手口が恐ろしいほど瓜二つだということに納得していただけたのではないか。

 ただ、実は両者の最大の共通点は、日本社会に長く続いていた「子どもへのわいせつ行為はやったもん勝ち」という悪習を巧みに利用してきたということに尽きる。

 令和の現在、「こども家庭庁」ができて「子どもの人権」と言い出したことからもわかるように、日本はこの分野は諸外国に比べ50年くらい遅れている。明治時代にできた封建的な家父長制を「日本の伝統的家族観」だと勘違いしてしまったことで、日本では子どもは「親の付属物」という位置付けが定着してしまった。

 だから、児童虐待も、児童へのわいせつも長く野放しだった。問題を起こした親や教師が「いやだなあ、しつけや指導の一環ですよ」とすっとぼけると無罪放免となった。ジャニー氏も常習的わいせつ教師も、この日本の悪習の恩恵を受けてきたと言える。

 しかし、それもここにきてようやく変わってきている。

 今年4月、「わいせつ教員対策新法」が施行された。これは、児童生徒へのわいせつ行為で懲戒免職となった教員が再び教壇に立つのを防ぐのが狙いで、教員免許を授与する都道府県教育委員会(教委)への「裁量的拒絶権」の付与や、わいせつ教員に関する「データベース」(DB)の新たな整備等が柱となっている。

 そこで提案だが、ジャニーズ事務所もこの方向に「活路」を見出したらどうか。

 芸能界では、「枕営業」ではないが、優位的な立場の人が、デビューを目指す若者の「性」を搾取するというケースがたびたび報告されている。中には、アイドルを目指すような未成年者もいる。ジャニー氏の性加害は未成年の少年たちをターゲットにしたという特殊性はあるものの、実は日本の芸能界では昭和から延々と続いている、極めてトラディショナルな「性犯罪」なのだ。

 そこでジャニーズ事務所が音頭をとって、芸能界全体の「性被害」をなくしていくような公的機関の設置を目指すのだ。

 BPO(放送倫理・番組向上機構)のような感じで、芸能事務所やテレビ局などから独立した立場で、芸能ビジネスのセクハラやわいせつの情報を集めて、警察や関連する組織と連携しながら問題解決に向けて動く。いずれは、ジャニー氏のような問題のある行為をしたマネージャーや業界関係者のデータベースも整備したらいい。

「そんなことできないだろ」と思うかもしれないが、これくらいのことをやらないと、失墜した信用は回復しないのではないか。ジャニーズ事務所の「本気」に期待したい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)