パワポ職人、会議芸人、調整さんはお役御免に
ここに述べたのは営業担当者の仕事だが、すべての仕事についてこれと同等の大きな変化がやってくる。
基本的な方向性としては、マルチタスクとなり、少人数で大きなことが実施できるようになる。業務は、顧客と接するフロントラインの提案活動と、有形のものをつくったり、実際にプロジェクトを動かしたり……といった実行に関わる業務に集約される。つまり、中間で行われていた情報の収集、編集、加工などの業務がほぼなくなる。たとえば、“パワポ職人”“会議芸人”(本当は何の貢献もないのだが、会議中に印象的な発言をしてさも仕事をしているようなふりをする人)“調整さん”(ホウレンソウと称して、情報をもって社内をぐるぐる回る人)はもはや必要ないのだ。
案外良いかもしれない。
さて、以上の変化はもちろん一大事なのだが、もう一つ重要なことがある。
喫緊の課題は、これらの大変化が顕在化した現在において、それらが無かった時代に構想された計画を予定通り実施するかどうかなのだ。大企業では、人事制度をジョブ型雇用に変えるといった計画や、大規模な財務会計の基幹システムの導入計画がまさに進行中であろうと推察される。
ここでは、ジョブ型雇用の導入を考えてみよう。
上記で述べたように、データ駆動型ビジネスの発展と生成AIの利用によって、職務(ジョブ)の概念と具体的な業務が大幅に変わる。地政学的対応から操業地域やパートナーもフレキシブルに変わらざるを得ず、これも業務内容に影響するだろう。
顧客の価値を構築するためのビジネスプロセスが大きく変わり、個人の担当する職務も各種のツールを利用することで大きく変わる。組織構造も個の仕事も大きく変わり、それが流動化し、変化し続けるなかで、従来の職務体系に基づいた採用・育成・処遇の体系を精緻に設計し、導入してもほとんど意味をなさないことは明白である。
こうしたジョブ型雇用の導入のために掛けてきた時間やエネルギーなどのコストは無駄になるかもしれないが、ここはきっぱりとあきらめて、プロジェクトそのものを即刻中断すべきなのである(ただし、だいぶん先になるだろうが、変化が落ち着いた後の導入はありえる)。