営業の仕事はマシンになるか、付加価値をつけられるか

 例えば、企業向けの営業担当者の業務を考えてみよう。

 まずはデータを基にした分析と自動化で、顧客候補の探索作業は効率化できる。企業調査にかけていた時間も、大幅に削減される。AIが財務諸表や人的資本データから相手の状況と課題を予測し、何を提案すればよいかについても、有意義で適切な知恵を授けてくれるだろう。

 企画書の作成に関しては、マイクロソフトが提供するCopilotなどのツールが、よりビジュアル的に魅力的でインパクトのあるドキュメントを生成する能力があるようだ。となると、これまで会社で重宝されていた“パワポ職人”の仕事はなくなる。

 さらに、提案文書はすでに自動的に他言語に翻訳することが可能だ。あと少したてば、重要性が非常に高い一部の会議を除いては、英語のできる社員に通訳を依頼することもなくなるだろう。

 顧客からの問い合わせについても、基本的なところは問い合わせ専用のチャットbotに任せておけばよい。カスタマーサポートの人員は劇的に減る。大きな問題が発生したときだけ、営業担当者か専門家が出ていけばよいのだ。

 こういった変化により、営業担当者の職務内容も、時間の配分も劇的に変わる。顧客を探すための時間、顧客分析のために資料をあさる時間、企画書作成のための時間、実施体制構築のための社内交渉、顧客からの問い合わせ対応……これらの時間が大幅に削減される。とりもなおさず、これらの業務を支援してくれていた人の仕事はなくなる。

 営業の仕事は、AIが要求するto do を実行する“マシン”になるか、その to doを超えるsomething different を構築する“知性”を発揮するか、のいずれかになるだろう。

 その結果、営業担当に求められる職能要件も大きく変わることになる。また、職務の難易度や重要性の変化に伴い、報酬の基準も見直されるのは必至だ。当然マシンと知性では希少性において大きな差があるから、その報酬の差も大きなものになる。