自社の本業がある日突然淘汰(とうた)されるかもしれない

 さて、ここで皆さんに考えていただきたいのは、これらの「ビジネスの構造」を大きく変えるニュービジネスの台頭が、自社が身を置く業界にどんな影響を及ぼすか、だ。それは、これまで30年、50年と続いてきたあなたの会社の本業が、ある日突然に、淘汰(とうた)される脅威を意味する。

 自社の収益の柱である商品の機能性を高めたり、価格を見直したり、販促を強化したり、流通チャネルを増やしたりと、いわば「持続的イノベーション」に注力することで競合とのシェア争いをしている中に、突如(とつじょ)として、これまでの機能改善が無意味になるような「破壊的イノベーション」を起こすプレイヤーが現れて、市場を席巻(せっけん)してしまう。経営者としては、身の毛もよだつような恐ろしい話だが、しかし、そういう事態がこれから10年、あらゆる産業で巻き起こると、私は見ている。

 ご存知の方も多いと思うが、『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)で知られる経営学者クレイトン・クリステンセン(Clayton M. Christensen)氏は、こうした事態が起こる原因を、「既存顧客が既存の製品やサービスに満足したときに、破壊的イノベーションの台頭が起こる」と分析している。

 氏によると、そもそもイノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の2種類があり、企業はステークホルダーに利益還元する義務を負う中で、経済合理性の高い「持続的イノベーション」を選択してしまいがちな傾向にあるという。

 しかし、「持続的イノベーション」を続けていると、ある時点でプロダクトやサービスが顧客のニーズを超え、オーバースペックとなる。そうこうしている間に、新興企業による「破壊的イノベーション」が巻き起こされ、それが市場に受け入れられることによって企業の提供価値が毀損(きそん)された状況となる、という指摘である。

 たとえば、家電量販店に足を運べば、4Kテレビが大量に陳列されている。数年前の液晶テレビに比べて、映像の鮮やかさは圧倒的である。ましてやブラウン管だった時代のテレビとは薄さも画面の大きさも比較にならないほどだ。

 これは企業による持続的イノベーションの賜物(たまもの)である。顧客の顕在化したニーズにひたすらフォーカスして、改善の競争を繰り返してきたからこそ、今日(こんにち)のような高機能で廉価(れんか)なテレビが大量に生まれたのである。