業界に“聖域”なし ニュービジネスが既存プレイヤーを凌駕する時代に

 もちろん、この破壊的イノベーションの脅威は、いまに始まったことではない。あらゆる産業・商品は、その端緒(たんしょ)においては破壊的イノベーションから始まっており、あなたがいま読んでいるこの書籍も、活版印刷技術の発明によって、一部の階級に独占されていた知識の流通構造を激変させた、破壊的イノベーションの産物だ。

 しかし、これからの時代は、過去100年と比べものにならないスピードで、さまざまな分野でニュービジネスが既存のプレイヤーを凌駕(りょうが)することになる。一説には、世界の医学知識が倍になるのに1950年当時は50年かかっていたものが、1980年には7年、2010年には3.5年、そして2020年には73日へと、劇的に短縮しているという。

 そうした中、自社の永い繁栄を築くために経営者がやるべきは、持続的イノベーションを超えた破壊的イノベーションの確実な創出と、これを継続的に起こせる組織づくりだ。

 というのも、規模の大小に関わらず、日本の企業は「新規事業を生み出そう」と言いながらも、既存事業の延長線上にない破壊的イノベーションを伴なう新規事業を目指そうという意識が弱い傾向にある。世界の時価総額ランキングにおける、日本の大企業の後退ぶりが何よりの証拠だ。

 私のもとに舞い込んでくる相談も新規事業とは名ばかりで、基幹商品にマイナーアップデートを加えるとか、付属商品を発売することを繰り返すだけで、なかなかリスクをとって新しいビジネスを生み出せない会社ばかりだ。

 しかし重ねて強調するが、持続的イノベーションだけに注力してリソース(経営資源)を投下していたとしても、ひとたび破壊的イノベーションが現れ、市場のルールそのものを変えるようなことになれば、これまでの自社努力はすべて無化する。

 そして、これは脅しなどではなく、破壊的イノベーションの波にまったく無縁な、聖域のような業界は、いまやどこにも存在しないだろう。

書影『新規事業を必ず生み出す経営』『新規事業を必ず生み出す経営』(日本経営合理化協会出版局)
守屋 実 著

 もし、いま従事しておられる業界が万一、破壊的イノベーションにまったく無縁な業界であるというのならば、これまでの延長線上で改善・進化させていければ、後発の競合に負ける可能性は非常に小さい。ただし、私にはそういう幸運な業界というのは、いまのところ思いつかない。

 規制に守られた業種や参入障壁の高い業種、資格・免許が必要なセクターなどであれば、イノベーションの荒波が押し寄せるのが少し先になるかもしれないが、それも時間の問題で、押し寄せたときに無防備であれば取り返しはつかない。

 こうした脅威に自社が今まさに晒(さら)されていることを、経営者はまずしっかりと認識していただきたいのである。