管理組合の運営の成否のカギを握るといってもいい「カネ問題」。区分所有者からの管理費と修繕積立金という収入をいかにうまく回しながら、不要なコストを削減して「金持ち組合」になれるのか。特集『マンション管理 天国と地獄』(全18回)の#11では、そんな先進組合の取り組みを取材した。数千万円も組合財政が改善したケースのほか、トラブルが起こらない、不足が発生しにくいカネの管理方法も実例を基に伝授する。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
デベが入れた赤字ミニショップ
入れ替えまでの苦節10年の財政改革
中庭を見渡すこぎれいなラウンジ。一面にれんがの壁が張られ、おしゃれな家具が置かれた空間で、リモートワーク中の住民が思い思いに仕事をしている。
東京都足立区の「イニシア千住曙町」のメインエントランスの横にある、広々としたラウンジスペースだ。設計は管理組合理事会でリフォーム業を営む理事が担当。れんがの壁のロゴデザインも住民が行った。「苦節10年ですね。このラウンジはイニシアの財政改革の象徴でもあるんですよ」。管理組合理事長の滝井康彦さんはしみじみとこうつぶやいた。
実は、14年前にマンションが完成したときにはここに焼きたてパンを売り物にしたミニショップが入っていた。デベロッパーが新築販売時に売り物にする「充実の共用施設」の一つだが、管理組合が費用を負担して運営するタイプのものだった。赤字が解消できず、2期目で撤退となってしまった。 その後長く空きスペースだったが、2020年にこのラウンジに生まれ変わった。
本特集#8でも見てきたが、マンション購入希望者にも住民にも重要なのが「管理組合の資金繰り」だ。「貧乏管理組合」と「金持ち管理組合」では、マンションの資産価値と住み心地に天と地の差がつく。金持ち管理組合になるには、どうしたらいいのか。その前に、まずマンション管理組合の資金繰りについて知る必要がある。
管理組合の会計とは、日常的な管理とマンションの維持を行う「フロー」と長期修繕計画のために積立金をためておく「ストック」に分かれる。
上図左のフローである管理費(一般)会計は、区分所有者から徴収する毎月の管理費を主な原資として、マンションで日常的に必要な管理を行う。用途は、管理会社に支払う管理委託費、そしてマンション共用部の光熱費、管理組合が加入する保険料などだ。右のストックである修繕積立金会計は、修繕積立金を原資に長期修繕に必要な資金をためておくものだ。駐車場の利用料金やマンション内の住民専用の共用施設の利用者から得られる利用料金もこれらの二つの会計の原資になる。
東京カンテイの統計によると、管理費の平均値は毎年上がり続けている。これはタワマンなど豪華で維持費がかかる共有施設を備えたマンションが増えていることも影響しているし、#5で見てきたように管理会社が管理組合に請求する管理委託費を値上げしている場合もある。さらに、燃料費高騰に伴う光熱費の値上がり、各保険会社による保険料の値上げ……等々、管理組合の会計を圧迫する要素はどんどん増えている。
ではどうすればいいのか。数千万円も組合財政が改善した驚きの手法や、実は活用できる超お得な助成金、管理組合の持ち出しなしで住民へ高級サービスを提供する方法、そして、組合財政改善のために絶対にやってはいけない禁じ手など、次ページから全て具体名、実例を基に解説していこう。