コロナ不況により電鉄大手でホテル売却が相次ぐのに対し、不動産大手はホテル事業を守った。2業種の間でなぜ差が出たのか。特集『ホテルの新・覇者』(全18回)の#10では、ホテル業界の女王、森トラストの伊達美和子社長が、コロナ禍を経て気付いた多角化の強さと落とし穴について語る。(聞き手/ダイヤモンド編集部 大根田康介)
「事業」「立地」「対象人口」
バリエーションでリスク分散
――2022年3月期決算のホテル事業の売上高は前期比31.1%増となり、今期は同22.4%増を予想しています。コロナ禍のさなかでも新規開業し、ホテル事業拡大の手を緩めていません。リスク覚悟で攻めているのですか。
リスク分散をしているんです。会社全体のポートフォリオで見れば、ホテル事業に力を注いでいるけれども、オフィス賃貸、不動産販売事業などをやっている。不動産という共通項がありながら、事業にバリエーションを持たせる。また都心部、地方、リゾートといった立地のバリエーションもある。そういったものをミックスさせることでリスク分散をしているんです。
観光業は、別の場所へ動いていく流動人口が対象です。対してオフィスはちょっと移動はしますけど同じ場所にとどまる人口が、住宅分譲も同様にその場所に定住する人口が対象です。コロナ禍では流動人口が減るという現象が起こり、人が動くことを前提にしたホテルや商業施設がマイナスの影響を受けました。
一つの業態だけを手掛けているところ、例えばシティーホテルに特化した事業者などは非常に厳しかったと思います。ボラティリティの高いホテル事業を拡大していく中では、バランスを取る経営を常に意識してきました。
――コロナ禍を通じた気付き、学びはありましたか。
ホテル事業を展開するのと同時に海外投資も始めており、その効果はありました。資産を円で持つか、ドルで持つかを含めてリスクヘッジしておく。実際、ちょうどいいタイミングで米サンノゼのオフィスビルを売却でき、利益も出せました。
昨今の為替の影響はネガティブな面もありますが、ドル資産を持つ立場からするとポジティブな面もある。うまく広く分散することでリスク回避の確度が上がってくるんだなと。
――電鉄会社でホテル売却が相次いでいます。彼らも多角化によりポートフォリオにバリエーションを持たせてきましたが、森トラストのそれとは何が違うのでしょうか。