中国が力を増し
日本が被害を受けるリスクも
われわれ日本人の中にも、プーチン大統領が失脚すればウクライナ紛争が終結し、ロシアの民主化が進むことを期待している人が多いように思える。だが、必ずしもそうとは限らない。プーチン大統領よりも強権的で、かつ親中派の指導者が登場するかもしれないのだ。
もし本当に、親中派の強権的な指導者が権力を掌握した暁には、中国はロシアに対して圧倒的な影響力を持つ。例えるならば、かつて栄華を誇ったモンゴル帝国「元」が再出現するようなものだ(第300回)。そして、その“大帝国化”した中国に、日本は軍事的に包囲されることになる。
ただでさえ日本は今、中国の軍事力の急激な拡大や、中国による台湾侵攻・尖閣諸島侵攻の懸念といった安全保障上の重大なリスクを抱えている。その状況下で中国がロシアへの影響力を強めると、日本は極めて不利な状況に追い込まれる。
こうした事態に備えて、NATOの協力を得て強固な安全保障体制を築きたいところだが、先のNATO首脳会議で「NATOの東京事務所設置」が事実上白紙に戻ったのは重大な懸念事項だといえる。
この案には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が強く反対した。これを受け、ハンガリーなど複数の加盟国もフランスに同調した。
もともとは中国も「アジア版NATOは不要だ」と猛反発していたことから、中国との経済関係を重視するマクロン大統領は中国を必要以上に刺激したくなかったのだろう。
この案は米英主導で進められてきたが、NATO内部が一枚岩でないことが明るみに出た。今のままでは、強大化した中国が台湾に侵攻したときなどに、NATOが本気で日本を守ってくれるかは疑問が残る。
国を奪われ、生活を奪われ、命を奪われているウクライナ国民の方々には本当に申し訳ない言い方になるが、こうした危険性を踏まえると、日本にとっては「ウクライナの反転攻勢が成功せず、プーチン大統領が政権を維持するほうがマシ」かもしれないのだ。
プーチン大統領は日本に対して強硬な姿勢を示し続けているが、中長期的には極東において、中国と日本の間でバランスを取ろうとするはずだ。
プーチン大統領はウクライナ戦争開戦後に、日本の「サハリンI・II」の天然ガス開発の権益維持を容認したこともある。その理由は、中国への過度な依存による「属国化」を避けるためだったと考えられる(第327回・p4)。
要するに、日本にとってはウクライナが勝てばいいわけではなく、プーチン大統領が失脚すればいいという単純な話ではないのだ。世界で孤立するリスクを抱える日本が国際社会で生き抜くには、複雑な国際関係の情勢を先読みし、戦略的に行動しなければならない。