ウクライナ紛争の開戦前から
ロシアは極めて不利だった

 というのも、ウクライナ紛争開戦時を振り返ると、ウラジーミル・プーチン露大統領はNATOに「三つの要求」を突き付けていた。その内容は以下の通りだ。

・「NATOがこれ以上拡大しない」という法的拘束力のある確約をする
・NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない
・1997年以降にNATOに加盟した国々から、NATOの部隊や軍事機構を撤去する

 だが、ウクライナ紛争が長引く中、この「三つの要求」はまだ一つも実現していない。それどころか、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟によって、ロシアがNATOと接する国境は以前の2倍以上に広がった。

 ロシア海軍の展開において極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国もほぼすべてNATO加盟国になり、ロシアの海軍は身動きが取りづらくなった(本連載第306回・p3)。両国の加盟は、ロシアの安全保障戦略に大打撃を与えたはずだ。

 とはいえ、長期的な視点での「ロシア不利」の状況は今に始まったことではない。東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATO・EUの勢力は東方に拡大を続けてきた。その半面、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退していた(第297回)。

 一連の勢力図を踏まえて、筆者はウクライナ戦争開戦時に「ロシアはすでに負けている」と表現したほどだ。

 しかし、厳しい状況に置かれているのはウクライナも同じだ。冒頭でも述べたが、今回の首脳会議ではウクライナのNATO加盟について具体的な進展がなかった。それどころか、ジョー・バイデン米大統領は「ウクライナのNATO加盟は戦争終結後」と明言した。

 NATO首脳会議に合わせて、主要7カ国(G7)は「ウクライナを守るために長期的な支援を行う」といった趣旨の共同宣言を発表したが、こうした支援が紛争の抜本的解決に結びつかないのは近年の戦況を見れば明らかだ。

 NATOはウクライナの領土奪還よりも、戦争を延々と継続させることを重視し、中途半端に戦争に関与しているように思える(第325回)。

 本連載で何度も指摘してきたが、米英をはじめとするNATOにとってウクライナ紛争とは、20年以上にわたって強大な権力を保持し、難攻不落の権力者と思われたプーチン大統領を弱体化させ、あわよくば打倒できるかもしれない好機である。紛争が長引けば長引くほど、プーチン大統領は追い込まれる。