そのため、NATOにはウクライナ紛争を積極的に停戦させる理由がない。NATO側がロシアに大打撃を与え、ウクライナ紛争を終わらせようと本気で考えているのであれば、支援を小出しにせず、戦局を大きく変える大量の武器をウクライナに供与しているはずだ。

 今後どれだけロシアが攻勢を強めたとしても、戦況を俯瞰すると「NATOの東方拡大」「ロシアの勢力縮小」という大きな構図は変わらない。繰り返しになるが、世界的に見ればロシアの後退は続いており、ロシアはすでに敗北していると言っても過言ではない。

 だからこそ、バイデン大統領やG7は「ウクライナのNATO加盟は戦争終結後」「ウクライナを守るために長期的な支援を行う」という発言をしたのだろう。やはり彼らは「ウクライナが戦い続けたいならば、少しずつ支援する」という煮え切らないスタンスなのである。このことが、NATO首脳会談を通じて再確認できたといえる。

プーチンを倒せば
ロシアが民主化するとは限らない

 では今後、長期的な視点では「追い込まれている」ロシアはどうなるのか。

 NATO首脳会談よりも前の話になるが、6月末にロシアの民間軍事会社「ワグネル・グループ」の創設者であるエフゲニー・プリゴジン氏が武装蜂起したことは示唆に富んでいる。この「ワグネルの反乱」は24時間ほどで終結したが、プーチン大統領の就任以来最大の造反事件となった。

 そして、この反乱を「プーチン体制の終わりの始まり」だと指摘する識者も出てきている。「プーチン大統領の次」に世間の関心が向き始めたようだ。

 本連載でもウクライナ紛争の開戦時から、「紛争終結後にプーチン大統領が失脚する可能性がある」「ポスト・プーチンがどうなるかを今から考えておく必要がある」と提言してきた(第298回・p6)。

 ここで「ポスト・プーチン」のカギを握るのが、ウクライナ紛争に関しては前面に立ちたがらない中国だ。

 思い返せば、開戦のきっかけとなった「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのは、ロシアにおける野党「ロシア共産党」だった。この党は、中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。

 やや疑り深い見方をすれば、中国共産党がプーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだと考えることもできる。

 この見方が正しければ、プーチン大統領を苦境に追いやった中国が、水面下で「親中派のポスト・プーチン」の擁立を画策していたとしても不思議ではない。

 一方で米英側も、ロシアを民主化するべく、ロシア人の民主主義者から「ポスト・プーチン」を担ぎ出そうと裏工作を続けているはずだ。

 だが米英の情報機関が動いていても、楽観的な見方は禁物だ。プーチン大統領は長期政権の間に、反体制派や民主化勢力を徹底的に弾圧してきた。その影響がプーチン大統領の失脚後も色濃く残り、民主化勢力が権力を掌握できない可能性も否定できない。