たとえばA元総理の自宅で、突然、押し入れの扉が壊れて中身が飛び出してきた。それが、全部札束だった……。B元幹事長には、業者からの陳情が多く、国会の議員会館に送られてくる贈り物が自室には入り切らず、別室を借りて、荷物部屋になっている……。
こんなケースを山のように私は聞いてきました。そして多くの日本人も、程度の差こそあれ、議員への口利きの話を耳に挟んでいるはずです。安倍晋三・菅義偉と、国会審議を重視せず、司法にまで介入するような政権が長く続き、国政選挙にさえ勝てば何をしてもいいという状態が続きました。
それを否定し、二階幹事長を厳しく批判してスタートしたはずの岸田政権も同じ道をたどっています。日本国民のほとんどは、特に若い人ほど報道の力を信じません。選挙でこの国が変えられるとも思っていません。私は大学で若い学生と接する度に、彼ら、彼女らのこの国への不信感を感じ続けてきました。
真のデジタル化を進めるなら
「デジタル監視庁」を創設せよ
せめて、報道機関がしっかりして、マイナンバーカードの欠陥を糾すことはできないのでしょうか。私は、財務省の力を抑えるために金融庁を設けたように、デジタル化を進めるために「デジタル監視庁」のような組織を設け、国や政権から完全に独立した捜査機関として、個人情報漏洩を厳しく追及するべきだと思います。
マイナンバーで大失敗や隠蔽をやっている人間たちを律し、法で裁けるようにすれば、国民は安心して、マイナンバーに登録すると考えます。たとえば、アメリカでは大量の個人情報流出があって、連邦政府のキャサリン・アーチュレタ人事管理局長が辞任しています。中国のサイバー攻撃により政府職員などの大量の個人情報が盗まれた事件の責任を取り、辞任という形を取りましたが、実際には野党やマスコミの追及が激しく、辞任させるしか鎮静化の方法がなかったからでした。日本にも、こうした厳正さが必要です。
どうして自民党政府は、こんな簡単なことがわからないのでしょうか。それはそうでしょう。戦後の政権のほとんどは自民党政権でした。つまりは行政と立法が同じ人間に支配され、安倍政権では司法さえ支配しようとして、検察のトップ人事にまで介入しかけていました(黒川検事長事件)。
それがいけないことだという自覚さえない議員が多いことに、国民は気付いています。野党は、国民のこの気持ちに配慮した国会運営、選挙戦略を立てるべきなのです。揚げ足取りだけでは、選挙で絶対勝てません。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)