2023年6月に改正マイナンバー法が成立し、マイナ保険証への移行が話題になったが、国立情報学研究所の佐藤一郎教授は「この法改正では大きな変化が起きている。マイナンバーの利用範囲の拡大だ」「利用範囲拡大で、マイナンバーを人に知られることによる実害が出てくる」という。どのような問題が起こるのか。(国立情報学研究所・教授 佐藤一郎 構成/梶原麻衣子)
「マイナ保険証」話題の陰で
大きな変化が起きていた
国民がなぜマイナンバーやマイナンバーカード(マイナカード)にこれほどまでに不安を持つかを考えた場合、単なる誤登録のミスがその根本ではなく、「マイナンバー(カード)を何に使うのか、その利用範囲が見えない」ことに行きつかざるを得ません。
もともとマイナンバーは民主党政権時代、消費税の逆進性によって生活に打撃を受けかねない低所得の人を対象とした給付金(給付付き税額控除)の交付を円滑化・迅速化することが目的の一つでした。
実際、総務省の言うマイナンバーの目的の一つに「所得や行政サービスの受給状況を把握しやすくなり、負担を不当に免れたり不正に給付を受けることを防止する。本当に困っている人にきめ細やかな支援を行う」ことが挙げられています。
ところがその後、安倍政権になり、消費税増税時に公明党の要請で軽減税率制度が導入されると、増税にかかる給付金交付の話はうやむやになってしまいました。これにより、国民にとってのマイナンバーそのものや、口座とのひも付けによるメリットが見えづらくなったことは否定できないでしょう。
また、2023年6月に改正マイナンバー法が成立し、ここで「マイナンバーカードと保険証との一体化、現行の保険証は廃止」と決まったことが話題になりましたが、この法改正ではマイナンバーについても大きな変化が起きています。それはマイナンバーの利用範囲の拡大です。