平城氏が著した当時の別班の姿は、こうだ。

 1954年頃、在日米軍の大規模撤退後の情報活動に危機感を覚えた米極東軍司令官ジョン・E・ハル大将が吉田茂首相に書簡を送り、自衛隊による秘密情報工作員育成の必要性を提案した。

 その結果、軍事情報スペシャリスト訓練(MIST)協定が結ばれ、陸自の情報要員が米軍から海外情報収集の訓練を受けることになった。

 61年には新たな協定に基づき日米軍事情報収集努力機構が設置され、陸幕第二部特別勤務班、秘匿名称「ムサシ機関」として、主に共産圏に対するHUMINT(人的情報活動)を開始した。情報収集の方法は、貿易会社員などに偽装した機関員が商社員や船員をエージェントとして運用するというものだった――。

 平城氏の回想からは、朝鮮戦争を発端とした冷戦の左右対立の中で、米軍と自衛隊が海外情報を収集するインテリジェンス機関を大急ぎで作り上げようとしたことがわかる。このようなインテリジェンス機関の要員がエージェント(現地での協力者)を使って行う活動をHUMINTという。

 なお、VIVANTに登場する警視庁公安部の野崎守(阿部寛氏が演じる人物)と、その助手に当たるドラムの関係はHUMINTの典型だ。野崎が工作担当者(いわゆるケースオフィサー、エージェント・ハンドラーともいう)、ドラムがエージェントに当たる。

 ちなみに、筆者は韓国軍情報機関の歴史を大学院などで研究してきたのだが、米軍は韓国でも日本同様に秘密情報工作員を養成し、組織を作っている。なので、このような日米韓での動きは時代の要請だったといえる。

別班は本当に存在する?
故・安倍元首相の答えとは

 そろそろ、別班は本当に存在するのか、今はどんな活動をしているのかという問いに答えなければならないだろう。その答えとして、二人の重要人物の声を紹介したい。

 安倍晋三首相(当時)は13年、衆参両院で「別班なる組織は、これまで自衛隊に存在したことはなく、現在も存在していない」と答弁した。一方で、先述した元別班長・平城氏は著書で「私は、現在でも、この『影の軍隊』が日本のどこかに存在し、日々、情報の収集に当たっていると確信している」と記している。

 つまり、表向きは存在しない組織として、存在しているということだろう。