別班に入ると戸籍が抹消される?
VIVANTファンの疑問にお答え

 これだけでは読者も消化不良だと思うので、これからは筆者の実体験に照らしながら、一般的にイメージされがちな別班像や、VIVANTで描かれる別班像の真偽について語っていきたい。

(1) 別班に入ると戸籍や自衛官の身分が抹消される?

 そもそも戸籍は原本を市区町村が、副本を法務省が管理しているため、防衛省ではどうすることもできない。では、自衛官の身分なら抹消できるのではないかと思われるだろうが、そう簡単なことではない。

 自衛官は国家公務員だ。税金と年金など社会保険料が給与から天引きされるし、本人と家族の保険証(本人は自衛官診療証)も必要だ。仮にダミーの会社を作ったり、別班にカバー(偽装身分)を提供している会社で勤務したりするとしても、税金や社会保険料の移管手続きを行わなければならないので、必ずほころびが生じる。

 現実世界では、乃木憂助(堺雅人氏が演じる人物)の身分を見破るのは野崎のような公安ではなく、乃木が勤務する丸菱商事の人事・給与担当者だろう。

(2)心理戦防護課程は特別な教育コース?

 陸自には普通科や機甲科、情報科などの「職種」があり、職種の中に細分化された「特技」がある。心理戦防護課程は情報科職種の特技教育の一つで、陸自情報学校(調査学校の後身)で陸自の幹部自衛官(将校)を対象に15週間の教育が行われている。

 ただし、数ある特技教育自体が、例えば戦車の操縦やレンジャー、爆発物処理などの特別な技能を身に付けさせるための教育なので、心理戦防護課程だけが特別というわけではない。とはいうものの、情報学校で教えられている心理戦防護課程と調査過程の内容は、一般人から見ると極めて興味深いことは間違いないだろう。

 とはいえ、心理戦防護課程を出たからといって、すぐに成果を上げられるわけではない。学校で教わるのは基礎の基礎なので、現場での反復訓練と経験が情報マンを育てていく。これはすべての自衛官に共通することだ。

 一つ付け加えるならば、心理戦防護課程はおおむね1尉(大尉)で入校するため、ドラマにおける乃木のように幹部候補生の身分で入ることは、あり得ない。