(3)別班は海外で活動し、殺人を含むミッションを行っている?

 前述したように、国内でのカバー活動であっても簡単ではない。乃木のように身分を偽って海外で活動している途中に逮捕されたら、待っている結末は死刑だ。外交官や戦闘服を着用して戦っている軍人はジュネーブ条約で生命が保護されるが、身分を隠し、私服で活動している“スパイ”の生命は保護されない。

 本人は強い使命感があるので本望かもしれないが、残された遺族も同じ気持ちだろうか。数億円の「賞恤金」(しょうじゅつきん、自衛隊員が殉職した場合に支払われる見舞金)を積まれ、ダンマリを決め込む遺族もいるだろうが、国家賠償請求に打って出る遺族もいるだろう。そんなことになったら、それこそ別班の活動は終わりだ。

 常識的に考えて、今も別班が存在するのならば、国内でケースオフィサーとして活動し、海外での情報収集はエージェントに任せているのではないか。そもそも、日本の外務省は、どこの役所に対しても偽装旅券の発行を認めていないので、カバーでの海外活動自体が成り立たない。

 そして、殺人を含むミッションは、完全にエンターテインメントの世界だ。殺人を犯すと現地の警察は総力を挙げて事件解決に向かう。乃木ら別班メンバーが「バルカ共和国」で行ったような襲撃任務は、インテリジェンスの領域ではなく特殊作戦の領域だ。

VIVANTで描かれる別班の
得意分野「CI」とは?

 最後に、少しだけインテリジェンスの専門的な話をしよう。

 VIVANTに描かれる国際テロ組織を追及する別班の姿は、どちらかというと平城氏が著したようなエージェント工作を行うHUMINTではなく、カウンターインテリジェンス(CI)に近いといえる。CIとは、敵のスパイ活動を秘密裏に調べ上げ、それを“無力化”する活動を指す。

 このようにHUMINTとCIは似て非なるものなので、米国のCIA(中央情報局)とFBI(連邦捜査局)のように組織が分けられている。業界では、HUMINT機関よりもCI機関の方がレベルが高いというのが常識だ。

 ケースオフィサーはエージェント獲得までは大変だが、その後は特別な技術を使わずに仕事ができる。一方でCIは、長期間にわたってスパイを監視・尾行し、秘匿撮影・録音で秘密接触の証拠を押さえなければならない。また、敵スパイ組織の内部にエージェントを作るケースオフィサーの仕事もしなければならない。

 筆者はその両方を経験したが、正直に言うとCIへの愛着が深い。だからVIVANTを見ていると、自衛隊インテリジェンス機関のライバルである警視庁公安部の野崎に、ついつい肩入れしてしまう。

 いかがだったろうか。VIVANTも残すところあと1話。最高のエンターテインメントに仕上がったドラマを見て、自衛隊でインテリジェンスをやってみたい!という後進が現れることを期待する。