ミラノの人たちが住めないミラノの街

 今世紀に入ると、企業のオフィスやホテルとして使われている建物が多くなります。名の知れた通りはグローバルにビジネスをするファッション企業の店舗やホテルなどがあふれ、昔ながらの小売店は次々にそうした用途に転用されていきます。このように、歴史地区は経済的な価値に重きを置いて発展した結果、建物を住居として維持できるのは代々の家主か経済的に豊かな人に限られる、そんな地区になっていったのです。

 その経済的レベルがあまりに高くなり過ぎ、ミラノで長くビジネスをしてきた企業には手が届きにくいという意味で、「ミラノらしさの空洞化」という現象を招いています。グローバル化とそれによる「ジェントリフィケーション(都市の富裕化現象)」です。通常、ジェントリフィケーションは貧困層やミドルクラスの生活圏が、富裕層に「浸食」を受けることを指しますが、これがローカル・アッパービジネス層のエリアにも起きているのです。70年代に起きた意味のイノベーションの成果も息切れした感があります。

 その代わり、今、歴史地区の周辺3〜4キロ圏内に意味のイノベーションが起こっています。地図で示せば、歴史地区の外縁(赤のライン)から環状線の周辺(薄い赤で塗りつぶしたエリアの外縁)までの範囲です。高度経済成長期に開発された郊外ほどは都心から離れておらず、もともと住宅と職人の工房などが混在する地域です。

価値創造の積み重ねによって起こったミラノの意味のイノベーション
©Alessandro Perazzoli
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