また、小さいが独自の主張として特色を出そうとした「再分配」の重視にあって、「1億円の壁」問題を引きながら、手段として金融所得課税の強化を打ち出した。

 金融所得課税の強化は、株式などへの投資の所得に対する増税なので、特に株式市場関係者に嫌われた。長く続く大きな下げにはならなかったが、岸田氏の首相就任後に株価が一時的に下落する「岸田ショック」と呼ばれる局面が出現した。

 2018年のつみたてNISA(少額投資非課税制度)のスタートなどを期に増えた若い年齢層の投資家は、岸田首相が投資や株式市場に対して好意的でない印象を持った。彼らの何パーセントかを敵に回したことは、今回のあだ名に対しても影響力を持っているように思う。

 また、金融所得課税強化は、それ自体が大いに疑問のある政策だし、「1億円の壁」の対象者はたいした人数でもないのだが、このアイデアは増税の実現を手柄と考える「増税マニア」たちの間に根強く存在したものだ。岸田氏はその代弁に利用された格好に見えた。

 こうした一連の流れから、岸田氏は「財政再建派である」「財務省の影響下にある」「増税勢力に簡単に利用される男だ」といった印象がもともと浸透していた。

 一方、考えてみるに、これまで実際にやったことは、規模と自由度の両面で投資を税制面で大いに優遇する新NISAであったことを思うと、いささかかわいそうな面がある。しかも、画像をよく見ると彼のメガネはフレームの細いメガネとしての主張が強くないデザインのものではないか。

 しかし、彼の「底意」を多くの人が増税の実現だと思っており、岸田氏は「増税したがっている男」だとのレッテル貼りが違和感なく通用している。大衆はよく人を見ている。

防衛費、少子化対策
続けざまの財源議論が決定打

 政権の樹立以来これまでの推移をたどると、「岸田首相は、増税を考えている」と多くの人が推測するような政策論議が二つあった。

 一つには、防衛費の対国内総生産(GDP)比を2%に引き上げる方針を短期間に決めた一連の動きだ。