写真:一万円札,経済対策写真はイメージです Photo:PIXTA

岸田文雄首相は9月25日、経済対策についての会見において、経済対策の取りまとめを表明したことはご承知の通り。「長年続いてきたコストカット型の経済から30年ぶりに歴史的転換を図る」や「適温経済」といった立派な言葉は踊っていたが、「新自由主義からの転換」や「令和の所得倍増計画」が見事なまでにほごにされたことを思い出せば、今回も「言っただけ」と考えるべきだろう。(政策コンサルタント 室伏謙一)

岸田首相が考える減税で
恩恵受けるのは大企業や投機家

 さて、その岸田文雄首相だが、同じ会見の中でこんなことも発言している。

「税収も増加しています。他方、コロナ禍を乗り越えた国民の皆様は、今度は物価高に苦しんでいます。今こそ、この成長の成果である税収増などを国民に適切に還元するべく、経済対策を実施したいと考えています」

 税収増は物価高によるところが大きく、「成長の成果」ではないが、それは横に置いておくこととして、税収の増加分を国民に還元するというのであれば、給付か減税というのがストレートで分かりやすいということになるだろう。

 実際、岸田首相は減税という選択肢は考えているようではあるが、同じ会見で述べていたのは賃上げ減税や国内投資減税といった企業、特に大企業向けの減税と投資(というより投機)減税。これでは恩恵が行くのは、賃上げが可能な大企業と、高額の投機をする投機家だけ。つまり、ごく一部の人たちに対する還元にしかならない。

 しかも、投資減税ということになれば、その中に外国人が多数含まれる可能性もある。これでは何のための経済対策なのか分からなくなるし、景気の浮揚や物価対策にはならない。

 内閣府の推計による本年4~6月期の需給ギャップがプラスになったことを奇貨として、政府というより財務省は財政支出を絞ろうと画策しているようであり、今回の経済対策の裏付けとなる補正予算案の総額を、まだ与党において具体的な議論すら始まっていない段階から抑え込む動きをしているともいわれている。

 昨年の補正予算編成の際、与党で議論し、まだ結論に至っていないのに勝手に総額を決めて、鈴木財務相の口を通じて岸田首相にうそを伝え、そのことがその場でバレて大目玉を食らったにもかかわらず、である。

 しかし、内閣府が推計する需給ギャップは、第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストの解説を参照しつつ分かりやすく言えば、推計に用いる潜在GDPは過去のGDPの「平均」であり、本来のGDP、供給力を表したものではない。

 特に、直近では2020(令和2)年にコロナショックにより大幅に需要が落ち込んでいるため、この期間を含む潜在GDPは過小になる。そして、昨今のコアインフレ率の上昇は、輸入物価上昇による食料品値上げによるところが大きい。したがって、実際の需給ギャップはマイナス、つまりまだまだ需要不足の状況であると考えられる。

 事実、日銀が推計し、発表した本年4~6月期の需給ギャップは、マイナス幅は前期より縮小したものの依然としてマイナスである。

 また、10月6日に総務省が発表した家計調査の本年8月分の消費支出も、対前年同期比でマイナスであった。しかも3月以降ずっとマイナスである。なお、前月比では8月の消費支出はプラスとなったが、これは夏休み消費、具体的には旅行や外食であるが、それが大きく寄与しており、コロナ明け最初の夏休みということも併せ考えれば、季節的な特殊要因と考えた方がいいだろう。

 要するに、需要が収縮傾向にあるということであり、そしてその大きな原因の一つが物価高であり、一刻も早く対策を講じなければならない状況にあるということである。