率直に言って米国追従を前のめりでやり過ぎて、カードを早く切り過ぎたように見えたが、ウクライナで戦争が始まり、日本周辺でも地政学的な緊張が高まっているとして、防衛費の増額を決めた。その財源の論議にあって、「使途が防衛費なら増税もやむを得ない」という理屈に期待して、増税も選択肢だという点を譲ろうとしなかったので、岸田氏は増税勢力の代弁者に見えた。
もう一つは、岸田氏が「異次元の少子化対策」と名付けた政策の財源論議だ。これは、「ただでさえ防衛費で財源が要るところに、少子化対策は社会保障的な政策なので、消費税の増税もやむを得ない」という世論を形成して、消費増税を一歩進めようとしているかのように見えた。
過去に消費税率引き上げを決める際に「社会保障の財源だ」という、よく考えるとほとんど意味のない議論に(お金に色は着いていないのだから)引っ掛かった記憶が国民にはあるので、「社会保障の財源」と来ると次の消費増税への前振りだなという連想が働くのだ。
岸田首相は
首相でいたいだけの人
こうして、ここまでの流れを振り返ると、「増税」の方だけでなく「メガネ」の理由も見えてくる。
巷間よく言われるように、政治家には、首相になって何かをやりたい人と、首相になりたいだけの人、の2種類がいる。
岸田氏は、明らかに首相になりたいだけの人で、かつ首相でいたいだけの人だ。政権のキャッチフレーズとして掲げた「新しい資本主義」に、その中身が全くなかったことが動かぬ証拠である。検討会議をつくって、中身はこれから考えましょうという、何ともひどい話だった。彼の本質は「空箱」なのだ。利用する側から見ると、代弁者として使いやすい人物だ。
あえて推測すると、岸田氏本人は増税したいと思っていないかもしれない。しかし、首相で居続けるためには、一つには米国に気に入られることが大事だし、もう一つには財務省を敵に回さないことが大事だと理解しているらしい。これは、そう間違っていない理解かもしれない。
故安倍氏の回顧録には、本気で政権を倒そうとすることもある財務省の恐ろしさが書かれている。岸田氏が、どんな思いであの本を読んだかは知るよしもないが、財務省を敵に回したくないという意識は強くあるのだろう。