受験生の子どもにとって夏休みが天王山ならば、親にとっては11月が正念場といっても過言ではない。ここでうまく自分の中の「内なる魔物」を手なずけられるかどうかが、残り3カ月の道のりの風景を変える。特集『わが子が成長する 中高一貫校&塾』(全34回)の#27では、『中受離婚』が話題の著者が、中学受験を親子共に笑顔で終えるための、残り3カ月の親の関わり方について考察する。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ)
11月は中学受験の「魔の月」
最悪の場合は「中受離婚」へ
いままで歩んできた道のりが長かった。仮に小学3年生の2月25日から塾に通い始めたとすると、小6の10月31日の時点で979日も歩んできたことになる。
だからこそ、残り日数がわずかに感じる。東京と神奈川の中学入試初日に当たる2月1日までの残り日数は92日。力試しできる模試の数も残りわずかだ。最終的な志望校の選択も迫られる。
いまはまだ力を発揮できなくても、いつか覚醒してくれて、御三家は無理にしても、準御三家や早慶付属くらいは受けられるかもしれない――。そんな淡い期待を抱きつつ、中学受験生を見守ってきた親も多いだろう。
その通りになった場合はいい。しかし、そうでない場合、この時期、いつまでたっても埋まらない期待と現実のギャップが、もう後がなくなった親を追い詰め、その心の奥底に潜んでいた“魔物”を呼び起こす。
11月が中学受験の「魔の月」と呼ばれるゆえんである。
親がパニックに陥っては、子どもも心の安定を失い、パフォーマンスを落としかねない。それを見て、さらに焦った親が子どもを執拗に叱責すると、親子の信頼関係にもひびが入る。
近年よく報告を受けるのは、そこにさらにもう一方の親(多くの場合、父親)が鼻を突っ込み、なおさら混乱するケースだ。その影響が夫婦間の信頼関係にまで及ぶと、最悪の場合、離婚に至る。いわば「中受離婚」である。
子どもへの愛情および責任感故の不安であることは百も承知であるにしても、取り乱した様子を見て幻滅してしまう……。土壇場で意見の違いが露呈し、どちらも引けなくなってしまい、時間切れで禍根を残す……。ただでさえ落ち込んでいる(表面的にはそうは見えないことが多いのが難しい)子どもの傷口に、さらに塩を塗り込むようなことをグチグチ言っているのを見て、子育てのパートナーとしての信頼を失う……。
法的な離婚にまでは至らなくても、夫婦関係が実質的に破綻して別居したり、家庭内別居のように疎遠になったり、という話を聞くことが増えている。