ゼネコン複合危機 全国2565社ランキング#5Photo:STOCK4B-RF/gettyimages

海洋土木の東洋建設は、任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が提案する東洋建設買収案に反対する方向で調整に入った。YFOは6月の株主総会で取締役会に過半数の取締役を送り込み、9月には買収価格を大幅に引き上げた。買収の下地は整っていたようにもみえたが……。特集『ゼネコン複合危機 全国2565社ランキング』の#5では、買収案を巡り東洋建設社内で生じた異変を明かす。(ダイヤモンド編集部 堀内亮、名古屋和希)

任天堂創業家によるTOB提案で
東洋建設が投資先審査受け入れ

 海洋土木の東洋建設は、任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が提案する東洋建設買収案に反対する方向で調整に入ったことが分かった。YFOの買収案検討のために設けられた東洋建設社内の特別委員会が近く、反対を決定する見通し。

 「当社はビジネスデューデリジェンス(投資先審査)に対応する」。海洋土木の東洋建設は10月4日、任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスからの株式公開買い付け(TOB)提案を巡り、新たな対応を明らかにした。

 M&Aを実施するに当たり、買収先の価値やリスクを調査するデューデリジェンスは重要なプロセスである。東洋建設がデューデリジェンスの受け入れを表明したことで、YFOによる買収は一歩進んだように見えた。

 YFOが東洋建設の買収に乗り出したのは、1年半前のこと。YFOは、2022年3月に準大手ゼネコンで前田建設工業を傘下に持つインフロニア・ホールディングスが東洋建設に対して実施したTOBに割って入ったのだ。

 YFOは同年5月に東洋建設に対し、友好的な協議を前提としてTOBによる非公開化を正式に提案。TOB価格はインフロニアの1株770円を大きく上回る1株1000円とした。

 そして、インフロニアによるTOBが不成立となり、YFOはその後、東洋建設の経営陣と協議を進めてきた。しかし、東洋建設側が徹底的に拒絶したため、YFOはTOB開始の前提となる取締役会の賛同は得られなかった。

 両社の対立が深まる中で、YFOは東洋建設に対する株主提案に踏み切る。6月に開かれた東洋建設の株主総会は異例の結果となる。YFO側が推す取締役候補は7人が選任された一方で、東洋建設側は6人にとどまったのだ(下図参照)。

 加えて、YFOは9月下旬に、TOB価格を従来の1000円から1255円に大幅に引き上げた。前提として挙げたのが、デューデリジェンスの実施だ。YFOは「(成長戦略の)実現可能性と、(事業の)ダウンサイドリスクを確認できれば、提案価格の引き上げが可能」と説明した。

 そして、東洋建設もYFOが条件として提示したデューデリジェンスを部分的に受け入れると表明した。YFO側が、取締役の過半を押さえた上に、TOB価格も大幅に引き上げたことで、買収成立は秒読みに入ったようにもみえた。

 だが、東洋建設はYFOの買収案に反対する見通しとなった。なぜか。次ページでは、買収案を巡り東洋建設社内に生じた異変を明らかにする。また、YFOによる買収案を拒否することで東洋建設が直面しかねない2つのリスクシナリオも明らかにする。