コンサートが終わります。客席の大きな拍手の渦に押し出されるように、さださんが楽屋に戻ってきました。すべてのエネルギーを放電しつくしてぬけがらのようになったさださんに、私たちは紙袋を手渡します。「おお? あったのか? やるな、お前ら!」
ところが袋を開けた途端にさださんはその場にくずおれます。「これか……。そうくるか……。やっぱり、お前らに任せたのが間違いだったか……」
袋から出されたのは、ビニール製、空気で膨らます、子鹿の人形でした。つまりは、バンビちゃんです。
「これでどうやって寝るんだよ!」かなり呆れている模様。そりゃ当然です。廣田先輩が真顔で答えます。「このですね、足のところを持ってもらって、胴のところが、枕になります」
私としても、これしかない、という解決策がバンビちゃんだったので続けます。「で、足の組み合わせでいろいろ使えるんじゃないかと。前足の間に頭か、前足と後ろ足の間に頭か……」
言いながら、バンビちゃんと三時間以上過ごすさださんが気の毒になってきました。こりゃ本気で怒られても仕方なしと、腹をくくった瞬間、さださんから返ってきた言葉は、「まあ、試してみようか? 案外とよかったりしてね。しかしバカだね、お前ら」
またもや、彼の器の巨大さを感じました。アホな部下も「そうくるか」といったん受け止める。そして部下の提案には乗ってみる。たとえコンサートでくたくたになっていたとしても。
この話にはオチがありまして。実はこのバンビちゃん、お腹を押すと「きゅー」と鳴く仕組みでした。「寝れるか!!」と言いながら、けっこう寝ていらっしゃった。お疲れなのと、細かいことを気にしない才能なのか。いやあ、本当にすみません。
下手でもほめる。相手の成長を応援する
さださんのゴルフの人数合わせでのラウンドでのことです。いつになっても上手くならない、練習もしてこない私の、どうにもならない「チョロ」なショットに対しても、
「いいねえ!」「いいんだよ! 前に転がった! それだけでいいんだ何事も!」から始まり、「ナイスショット松本! 当たったねえ! いいのいいの、曲がっても何しても、今日一番当たったし!」「お前、実はゴルフのセンスあるんじゃないの? いまのスイング綺麗だったよ!」