持ちつ持たれつの
銀行と信用調査会社
ところで皆さんは、この信用調査機関という組織はご存じだろうか。会社の業績や信用状態を調べて、レポートを販売している会社で、帝国データバンクや東京商工リサーチなどが有名だ。銀行も、この信用調査レポートを活用することがある。新規顧客開拓を専門にする私のチームには、この調査レポートが欠かせない。
飛び込みで銀行員が来訪し、両手を広げて大歓迎してくれる素晴らしい会社は皆無だ。今も昔も、銀行が取引したくなる隆々とした会社ほど、銀行の世話にはならない。
そこで会社の実態把握のために参考にせざるを得ないのが、信用調査機関による調査レポートだ。いわば「教科書ガイド」のようなものであり、信用調査機関が大事だと説明するポイントを事前に知っておくことで、その企業の理解度が一層深まる。
逆に、銀行が信用調査機関から調査を受けることもあった。取引先からは、財務情報などをたくさん開示してもらう。また、口座を利用してもらうことで、いやが応でも仕入れ先などの情報が分かる。こうした情報は金では買えない。
一方、銀行は顧客情報に対して守秘義務がある。取引先とは信頼関係の上に成り立っている。銀行にとって顧客情報を守ることは、何よりも優先しなければならない生命線だ。
私は、この調査担当者と会うのが嫌だった。若手の頃から「信用調査機関が来たら適当にあしらえ」と課長や先輩たちから口酸っぱく教え込まれてきた。だから、居留守を使うこともしばしばあった。
「大阪リサーチセンターです。A社との取引を検討しているB社から調査依頼がありまして。M銀行さんはA社のメインバンクなのに、ご担当の目黒さんは会ってくれないものですから」
「はい、あー、すいません」
「いやあ、メインさんが何か言えない情報でもお持ちかと思いまして。集まる情報によっては、A社の行方が変わるかも知れません」
言葉は柔らかだが、私の緊張はむしろ高まった。
「A社さんから本年3月期の決算書をいただいていると思いますが、売上高はいくらでしたか?」
「それはお話しできません」
「そう言うと思ってました。じゃあ、答えやすいように…前年比から上がったか?下がったか?」
誘導尋問のようだ。銀行としては答える義務はないし、むしろ答えたら情報漏えいであるが、沈黙を貫けば言いにくいことがあると決めつけられ、顧客であるA社に迷惑をかけてしまうかも知れない。
皮肉なことに、このような情報を頼りに信用調査機関が作ったレポートを、取引開始の糸口を見つける重要資料として、私たち自身が活用しているのだ。悪い情報はオブラートに包み込み、良い情報は一層誇張し脚色されている可能性もあるため、全部を信じることにはリスクを伴う。