また、日本はロシアからカニ、サケ・マス、タラの卵やウニを輸入しており、これらの食材の価格が上昇し、いずれは日本の食卓から消えてしまう可能性もある。

海外事業リスクの見直し

日本国内における家計への影響は主にモノの値段が上昇することによるものであることを説明したが、企業への影響も大きいだろう。今回を機に、真剣に海外事業リスクを見直した方がいいからだ。

日本は欧米各国と歩調を合わせる形で経済制裁に参加した。ロシアを国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除し、ロシア中央銀行のドル資産を凍結したことで、ロシアとのビジネスは非常に厳しいものとなった。

帝国データバンクによれば、ロシアに進出している日本企業は2022年2月時点で347社ということだが、今後ロシアでビジネスを続けることは至難の業であり、有形・無形を問わずこれまでに築き上げた同国における資産は無に帰す可能性が高い。ロシア政府はすでに同国から撤退する外資系企業などの資産を差し押さえる検討を始めている。

冒頭で、まだ起こってはいない中国・台湾事案についても触れたが、日本企業は中国における事業のリスクも改めて見直すべきだろう。少子高齢化が進み、経済もゼロ成長を続ける国内市場に比べ、10億人以上の人口を抱え、経済成長目覚ましい中国に魅力を感じて多くの日本企業がすでに進出している。

しかし、同国はロシア以上に強権的な国家だ。中国・台湾事案が起こらずとも、ある日急にルールが改訂され、資産を接収されるような事態も十分考えられる。

迫られるエネルギー政策の見直し

ロシアは原油や農水産物以外に、非鉄金属などの資源でも大きな存在感を持っている。世界のパラジウムの産出量のうち約4割がロシア産だ。それ以外にも、アルミニウムやニッケルもロシアが約1割のシェアを握っている。

世界が混沌としていく中で、ロシア・ウクライナ事案が長引き、中国・台湾事案、またはその他の国・地域における地政学リスクが高まればどうなるか。または新型コロナウイルスの変異種の誕生による感染拡大など、さらに世界経済が混迷を極めると、多くの食料や資源を輸入に頼っている日本経済は、仮に自国が当事者にならずとも、大きなダメージを受けることになる。

そのような事態が現実のものとなる前に、経済安全保障の観点からさまざまな議論を進めることが重要であり、そのうちの1つがエネルギー政策の見直しであろう。東日本大震災が起こる前年度、つまり2010年度の発電電力量に占める原子力の割合は25%だったが、福島第一原発の事故以降は再稼働が進まず、2020年度はわずか3.9%にとどまっている。足元と目先のエネルギー政策すらまともに議論できないまま、脱炭素やSDGsといったテーマだけを闇雲(やみくも)に追い求めるのは平和ボケが過ぎるだろう。