「新しい事業の提案や、広告・メディアの出演のオファーをいただいたり、『株式会社斎藤佑樹で働きたい』と手を挙げてくださる方がいたりと、一気に新しい世界が広がりました」

斎藤氏が考える野球の未来や野球の楽しさを実現するための課題はいくつもある。目下考えているのは、野球を始めるきっかけづくりや野球用品の費用を抑える仕組み、続けるための練習場所の確保など。この“練習場所”の課題に挑む事業として、斎藤氏が支援するのが「外苑前野球ジム」だ。

ケガで野球を断念する人を1人でも減らす、その近道が出資だった

東京・青山という都心につくられた、365日24時間いつでも利用できる会員制野球ジム。「都会ではキャッチボールすらできる場所がない」という“野球の課題”を解消する場所として生まれた。プロ仕様の砂を取り入れたマウンドや、野球選手向けトラッキングシステム・ラプソード6台を導入するなど、設備にはこだわっている。

運営するKnowhere代表の伊藤久史氏は、斎藤氏と同い年の33歳。慶應義塾大学卒業後、ディー・エヌ・エー、HEROZでアプリ開発に携わり、法人向けAI導入などを担当していた。野球には小中学校で親しみ、スポーツは「データで楽しむ派」。デジタル人材としてのキャリアを生かし、野球界に貢献しようと起業した。

(左)元プロ野球選手の斎藤佑樹氏 (右)Knowhere代表の伊藤久史氏
(左)元プロ野球選手の斎藤佑樹氏 (右)Knowhere代表の伊藤久史氏

そんな伊藤氏と選手時代に出会い、ジム新設の構想を聞く中で意気投合したという斎藤氏は、「いつでも思い立った時に通えるとありがたい」「投手が本番に即した練習ができるだけの距離がほしい」など選手視点での意見を伝えたという。

都心にありながら18.44mの距離を確保したピッチング練習用フィールドは、選手の背面側の奥行きも十分に取り、どの角度からもカメラで記録することが可能だ。実はこの分析特化型の環境に、斎藤は「野球の明るい未来」を見出し、この6月に会社としての出資を決めた。

「ここで撮影したフォームの動画や画像をAIに読み込ませて分析することで、精度の高いフィードバックを提供できる。これまで、野球の技術は指導者のコーチングによって向上するものだと考えられてきましたが、個人の経験や感覚が全員にハマるとは限らない。正直、相性もあると思います。選手にとって一番大事なのは、“自己認識”です。世の中の選手と比較して、自分は今どんな状態にあるのか。昨日の自分と比べて、どう変わったのか。自分自身の現状把握をより正確に効率的にできるようになれば、より早く楽しく成長できる。何より、ケガの予防につながるんです」(斎藤氏)