「いろいろな分野で活躍している同世代に会うと、特に刺激になりますね。選手時代は“同世代”といえば球界の同期ばかり気になっていましたけれど、世界を広く見渡せば本当に多様な同世代がいるんだなと、あらためて感動しています」(斎藤氏)

とはいえ新しいことや“常識はずれ”なことをやろうとすると、批判はつきものだ。でも、斎藤氏は「気にせず、自分がやるべきことに集中する」と決めている。

「周りの目を気にしだすとキリがないです。1000人中1000人を味方にするなんて不可能だし、人それぞれ考えが違うのは当たり前。全員に理解してもらおうとすることに労力を費やすのはあまり意味がなくて、“今、自分が集中すべきこと”を見極めて力を尽くすだけ。5年くらい前に、アドラー心理学について書かれた『嫌われる勇気』を読んだときに、自分の生き方は間違ってなかったんだなと思えた瞬間がありました」(斎藤氏)

野球を続ける上でハードルになる課題を全部解消していきたい

野球選手のセカンドキャリアにも正解はない。「結局は、本人が何をしたいか。自分自身を見つめ、深く知ることからしか始まらない」と斎藤氏は考えている。

気負うことなく“今の自分”に集中している斎藤氏。「いつか、少年野球専用のスタジアムをつくってみたい」と夢は膨らむ。

だが現実を見れば、野球人口は減少傾向にあって決して明るくはない状況だ。全日本軟式野球連盟によれば、1982年度には推定32万人だった競技人口も、2020年度には約18万7000人となるなど、年々減少傾向を辿っている。

だが、斎藤氏は思考を止めない。「日本の人口そのものが減っているのだから、野球人口を増やすのは難しい。大事なのは、数ではなく“体験の質”を高めることだと思う。だから、野球を続ける上でハードルになる課題を全部解消していきたい」(斎藤氏)。そのアプローチのひとつが、今まさに取り組んでいる練習用ジムの開設や、ケガ予防をサポートする技術開発なのだ。

一貫して“野球愛”を語る斎藤氏に、最後に聞いてみた。「野球のある人生とない人生、何が違うと思いますか」と。実はこの問いは、斎藤氏と同じピッチャーを目指す10歳の野球少年から預かったものだった。質問の主旨を伝えると、斎藤氏は嬉しそうに、一つひとつの言葉を確かめるように答えてくれた。

「野球のある人生で得られること……そうですね。今の僕がこうして楽しく前向きに生きているのは、野球を通じて出会えた仲間や先輩、師匠と分かち合えた時間があったからです。僕はほかのスポーツをやったことがないから比較はできませんが、野球はすごく複雑な球技で、準備や片付け、ベンチでの声かけも含めて、役割が多いスポーツなんです」