この記事では必要だとわかっていてもメンバーをどうしても褒められない人への処方箋として、褒めることの合理性と褒める技術を身につけるヒントを、心理学とコーチングの視点からお伝えしていきます。

「褒める」ことは、実は「認める」ことである

褒めると聞くと、「人の能力や成果を称賛する」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。もし「うちのメンバーは大きな成果を出していないので褒めるところがない」と思っているのであれば、褒めることの定義から見直していく必要があります。

褒めることの本質的な価値は「相手の存在を肯定し、自尊感情を生み出すこと」にあります。相手の存在を肯定する、つまり「褒める」ことをもう少し広い定義でとらえると相手を”認める”という行為に内包されます。これをコーチングの分野では、承認(アクノレッジメント)と呼び、コーチが持つ重要な技術のひとつに位置付けられます。

人を”褒める”ではなく、人を”認める”という範囲で捉え直していくことが、褒め上手になる第一歩となります。

人をどんどん認めるほうが合理的な理由

有名な心理学の用語に「ピグマリオン効果」という言葉があります。これは、アメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタール氏が行った実験によって証明された効果です。具体的には、無作為に分けた2つのクラスの担任に一方は「これから成績が伸びる子どもである」と伝え、もう一方はなにも伝えませんでした。

その結果、「伸びる」と伝えられたクラスの生徒たちの成績がそうでないクラスの生徒よりも有意に高くなる結果になったというものです。つまり、教師が期待しているほど、生徒は成長するということを意味しています。

同じように、ビジネスでもメンバーの成長を期待することで、その期待が本人に伝わり結果的にモチベーションが高まるほか、機会を惜しみなく提供することに繋がり、成長することが期待できます。

また、昨今話題の「心理的安全性」を世に知らしめたGoogleの研究「プロジェクトアリストテレス」によると、心理的安全性を高めて組織の成果を上げる際の重要な変数のひとつに「チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる」という要素を挙げています。

このことからも、メンバーを認め、期待することはメンバー自身を成長させ、チームの成果を高める上でも明らかに合理的です。一方で、人を認めるというのは感情的にはそう簡単でないこともまた事実です。人は無意識に他人をジャッジし、序列を形成してしまう生き物ですし、一度固定化した評価は確証バイアスによって深まっていきます。そして、手放しにすべてを認められるほど人はシンプルでもありません。