士業の事務所などは転職サイトに求人を掲載するという文化もないため、どういった情報を求人票に載せればいいかわからない。そこで山本氏を中心にヒュープロのメンバーがコンサルティングのようなかたちで、求人情報の作成などを手伝っていった。

こうして“最速転職”というコンセプトのもと、「求職者とオンラインで情報のやり取りをし、すぐに求人を紹介して転職につなげる」という、従来の“対面でのコミュニケーション”を前提とした転職エージェントにはなかった価値を提供。転職したい求職者と採用したい士業の事務所の双方から喜びの声をもらうようになったという。

「士業は専門領域のため、企業としても求職者に求めるスキルが明確であるという特徴があります。そのような情報は求人票に明確に記載されていますが、求職者は事務所や管理部門の組織図など、求人票に記載されている以上の情報を求めています。そこに特化した情報を提供することでスピード感を持って求職者と事務所をマッチングできるようにしました。その結果、いち早く転職と採用が実現でき、喜んでくれたんです」(山本氏)

“速さ”を武器に成長──士業・管理部門特化の転職支援のヒュープロ、藤田ファンドから約3億円の資金調達

今後はダイレクトリクルーティング機能も開発

数字が伸びてきたこともあり、2019年1月にXTech VenturesからプレシリーズAラウンドで6000万円の資金調達を実施。その資金をもとに成長を図っていこうとしたが、再び「組織崩壊」という壁にぶつかる。山本氏は「経営者として未熟だった」と振り返る。

当時、6000万円の半分をオフィス移転に使用し、さらには当時の利益と同額を広告費として投じることを決めた。「当時は少額の広告費投資で、まとまった利益が出ていたので、さらに広告費を投じれば利益を増やせると思った」(山本氏)そうだが、結果的には組織が崩壊する原因となった。

「広告費を増やしたことでエントリー数は増やせたものの、社内のオペレーションの仕組みが整っていなかったため、お客様の要望に対応しきれず社内が疲弊していってしまったんです。また、全員がオペレーションに対応しており、バックオフィス業務を担当する人がいなかったため、請求書業務をやる人がおらず、取引先からの入金がない状態になってしまいました。法人口座の残高は底をつき、銀行から『給与の引き落としができません』と電話がかかってくるなど、組織が壊滅的な状況になり、人が離れていきました」(山本氏)

十数名いた社員も半分以上が退職し、残ったのは新人の6人のみ。そこから改めて社内体制を整えた。また、サービスの機能を磨き込み、経営者として何を目指すのかを発信していくようにした結果、組織も持ち直していった。コロナ禍でオフラインを軸とした従来のエージェントが苦戦する一方、オンラインを軸としたヒュープロにはこれが追い風となり、事業も成長。1年で売上を10倍にも伸ばした。そうした実績も評価され、今回藤田ファンドからの出資につながったという。