その後、社長は「DTPに力を入れよう」という山光の提案を受け入れ、新たな部門を設立。山光はそこで、DTPを使って海外製品のマニュアルを作る業務に就いた。

当時のマック周辺機器は海外製なので、イケショップはそれまで商社を通して商品を仕入れていた。それがある時、「自社で輸入販売しよう」ということになり、輸入商社を立ち上げた。その担当者に抜てきされたのが、山光だった。

その頃はまだネットで買い物という時代ではない。サンフランシスコで開催されていたアップル製品や周辺機器の展示会「マックワールド」などに出張し、売れそうな商品を発掘して買い付ける。それは山光にとって仕事というよりも「宝探し」に近い感覚だったと振り返る。

「面白い商品を探してきて、会社に提案して了解を得られれば、会社のお金で買い付ける。それが売れたら自分の成果になって、お給料が上がっていく。これはもう宝探しみたいなもんじゃないですか。そういうワクワクするような気持ちで、いいものないかなって探し回っていました」

38歳の「クレイジー」な決断

この宝探しで問われるのは、直感ではなく目利き力だ。アップルオタクを自認する自分が「欲しい!」と思うのは当然として、それだけでは仕入れの決定打にはならない。

「あくまでも自分が最初の基点にはなるんですけど、それだけじゃ汎用性が高くない。大切なのは、どのぐらいニーズが広いか、深いか。それを想像しながらひとつひとつの商品を見て回ります。それでピンとくるものがあれば使ってみて、確かにターゲット層に刺さりそうだと思ったら調達するという流れになります」

ニーズの広さと深さの判断は今も山光の目利き力の要なので、詳しくは後述しよう。展示会で山光がいくら「これは売れる!」と確信しても、社長を納得させなくてはならない。社長に提案した時、「そんなの高すぎて売れないよ」と却下されそうになったものの、なんとか説得して仕入れたのが、CDを読み込んだり、CDにさまざまなデータを保存できるiMac用のCD-Rドライブだった。

「3、4万円したんで、その頃の感覚ではすごく高かったと思います。でも音楽や画像を取り込んで自分のCDを作りたいという需要は確実にあって、それはこのくらいの費用を出しても買ってもらえるという自信がありました。これが本当に大ヒットしたんですよ。マーケティングの経験として、すごくよかったなと思いますね」

イケショップの輸入商社で10年ほどマーケティング感覚と目利き力を磨いた山光は2003年、38歳の時に独立してサンコーを立ち上げた。