「樫田さんと山代さんに指摘され、明確になっていない領域があることに気付かされました。そして、それは以前の自分がコンサルティング先でよく指摘していた視点でもありました。第三者として、社内だけでは見落としていた部分を因数分解し、議論できたのはよかったです」(秋山氏)
そして、Growth CampはChargeSPOTのあらゆる数字を分析する。同時にユーザーインタビューも行い、離脱するポイントも探った。
その結果分かったのは、初月からの継続率は10%以下であること、さらにユーザーの多くがF1層(20〜34歳の女性)で、そのほとんどが単発の利用で終わってしまっていること。その多くの理由が「毎日のように使うサービスではないため、必要になったときに思い浮かびにくい」「一度使ったけれど、しばらく使わなかったためアプリを消した」といったものだった。純粋想起が弱いために、コンビニでバッテリーを購入するなど他の充電手段に負けていたのだ。
一方で、新たな発見もあった。単発での利用で終わるユーザーが多いなか「初回に何度か利用したユーザー」であれば、その後の継続率は高いことがわかった。過去に実施したキャンペーン実績からも、初回から3回以上利用するとサービス認知が根付き、利用の常習化が進んでいるように考えられた。
ChargeSPOTで注力すべきは最初の1回を増やすことではなく、いかに初めての利用〜2、3回の初期段階で何度も使われる機会を増やせるかどうか。そういった状況を戦略的に作りだせれば、サービスへの純粋想起も高まり、かつ継続率も上がるはず──この考えをヒントに生まれたのが、福岡県内限定の無料充電キャンペーンだった。
福岡県内にフォーカスした結果、継続率は約4倍に
ChargeSPOTは2020年12月から翌年2月にかけて福岡県内限定で無料充電キャンペーンを実施。通常ならば48時間で300円となるところを、1回の利用が48時間以内であれば無料で借り放題にした。狙いは以下の通りだ。
- キャンペーン期間内の利用料をすべて無料にすることで、初利用・複数回利用のモチベーションを作る
- テレビCMや交通広告を展開し、ChargeSPOTの認知度を上げる
- 初利用したユーザーの多くがコンビニ経由だったことから、福岡県全域のファミリーマートに充電スタンドを設置。スマホのバッテリーがなくなったときに「コンビニにある」と認識してもらい、探すようになる習慣を残す設計にした
その結果、初利用ユーザーの週次で見た継続率が通常時は6〜7%だったところ、キャンペーン期間中には25〜30%とアップ。さらに新規利用ユーザーの数も通常時の3倍になった。
「そもそも、コロナ禍でも使われていたほどに便利なサービスだったので、自信はありましたね」と山代氏は振り返る。
しかし、なぜ「福岡県限定」だったのか。山代氏によると、福岡県の人口動態は関東に似ていて、かつスケールが10分の1。福岡県というエリアに絞ることでキャンペーンに伴ったテレビCMといったマーケティングや充電スタンドの設置台数も10分の1スケールとなるため、リソースが少ないスタートアップでも施策を実施しやすいのだ。秋山氏いわく、INFORICH社内には福岡県の土地柄にくわしい社員がいたほか、歓楽街と文化とモバイルバッテリーの相性がいいことから「地の利がある」と感じたことも決め手になったという。