地域に絞ってテストすること自体は、スタートアップでもよくある事例だ。ChargeSPOTの場合、キャンペーン終了後にはファミリーマートとの全国の店舗での導入が決まり、さらにセブンイレブンやローソンとの取り組みも開始。サービス展開先となる店舗数が増えたことで、現在も数字は伸び続けている。
「スタートアップは会社規模やフェーズによってとりうるリスクレベルが変わります。INFORICHに関しても、リスクをとれる範囲で最も検証の意味があるかたちでテストできるようにキャンペーン内容を考えました」
「福岡県でのキャンペーンはINFORICH社内の最優先事項として掲げてもらい、マーケティングチームと営業チームは福岡県に1カ月張り込み、重点スポットの発見やローカルインタビュー、地場のプレーヤーとの連携を強化しました。さらに秋山さんをはじめ、INFORICHの経営陣も2週間ほど現地入りして、キャンペーン成功のためにさまざまな手を尽くしていったんです。そのおかげで、継続率のような数字とリアルなユーザー動向を全社員で見ることができました。これが礎となり、その後の取り組みに活きています。ここまで再現性を高め、キャンペーンの結果を全国展開する事例はまだ少ないはずです」(山代氏)
急成長を目指すスタートアップとしては、一気に全国展開したい気持ちがないわけではない。だが、そうするとエネルギーもコストも分散してしまい、事象が複雑になった結果、失敗してしまうスタートアップも多い。ChargeSPOTが実施した福岡県限定キャンペーンのように、地域を限定しパワーやコストを絞ればシンプルになり、コントロールもしやすくなる。これこそ選択と集中だが「みんな、捨てるのが怖いのだと思う」と樫田氏は言う。
「多くの企業は、捨てるのが苦手なんです。打ち合わせで『何が大事ですか?』と聞くと『全部』と言われることもよくあります。しかし、それでは集中すべきポイントがわからず、現場も混乱します。特にChargeSPOTはロケーションベースになるので、選択と集中はとても大事。『福岡県』『コンビニ』に絞ってしまえば、あとはそこに営業リソースを集中できるので、余計なマインドシェアを使わずにすみます」
「僕らは起業家と仕事することが多いのですが、スケールのあるものを一気に進めようとする前のめりなことをしがちな人も少なくありません。ちなみに、秋山さんも前のめりなタイプではあります(笑)。しかし、いざ現場に落とし込むとなるとある程度適切にフェーズわけを行い、ステップを切ることになります。必然的にスコープも絞り込むことになりますが、そうすると現場メンバーとしては『尻込みしていると経営陣に思われてしまうかもしれない』と悩むことになる。そこへ第三者として『あえて絞ります』と入り込み、議論を整理することも我々の大事な役割でした」(樫田氏)