パートナー企業を巻き込んだOMO事業のアイデア自体は何も突拍子のないものではなく、数年前から検討を進めてきたものだ。

1つの転機になったのが、2020年の春から夏頃。新型コロナウイルスの影響などから業態転換を考えた複数の事業者から「root Cを作れるなら厨房を完全自動化するようなロボットや、自動で商品の受け渡しができるようなソリューションを作れないか」「root Cの機能の一部を切り出して提供してもらえないか」といった声が寄せられた。

実際に現在プロジェクトを進めている顧客の中には、その頃から時間をかけて議論を重ねてきた企業もあるという。

中尾氏自身、起業当初は「root Cを横展開する」ようなかたちで、特定の領域ごとに自社ブランドのロボットを展開することを考えていた。ただ、root Cを手がける中で「そのアプローチは必ずしも最適ではない」と整理がついたことから、方向性を変える決断をした。

「もともとは業界の課題や自社の技術を認識した上で、(ブランドの立ち上げも含めて)自分たちですべてをやるべきだという意識が強かったんです。ただ、root Cで少しずつ実績ができ始め、いろいろな事業者とも話をする中で、そうじゃないなと。すでにブランドを持っている方々に自社の技術を活用してもらう方が、自分たちも得意なところに注力できます。その方がより多くのお客さんに早く使ってもらうこともできるので、合理的だと思ったんです」(中尾氏)

社員数十名のスタートアップが、グローバル飲食チェーンから選ばれる理由

New Innovationsにはロボコン出身者なども多く集まる
New Innovationsにはロボコン出身者なども多く集まる

それにしても創業数年、社員数も数十名ほどのスタートアップが、なぜ大手の飲食チェーンから選ばれることができたのか。中尾氏はその理由を「この会社であれば、やりたいことを本当に実現できると感じてもらえたからではないか」と分析する。

「私たちが対面するのは日本法人のトップや経営企画の本部長といった役職の方が多いのですが、みなさんすでにコンサルティング企業などから提案を受けているんですね。ただ『ここの数字がどのように改善された結果、全体のROIがこう変わる』という理論はわかったけれど『実際に実現できるんですか』というところがネックになって、辟易されていることも多い」

「私たちももちろん資料は作るのですが、早い段階でプロトタイプを作り、従来のフローが何が変わるのかをテストキッチンで試してもらうということをやっています。(開発までに)少し時間はかかるのですが、実物を見ながら、コスト削減の無人化ではなく、収益向上の自動化ができるかどうかを確かめてもらう。先方にとっても損失はなく、実際に実現できるのであればやりたいといっていただけることが多いです。特に外資系の企業はある意味『あっさり』しているというか、スタートアップであることが理由で『選ばれにくい』ということはあまりないように感じています」(中尾氏)