比較サイトはラクスルが直接流通に入るわけではないため、品質のコントロールを担保できない。そこにほころびが生じ始めたわけだ。

もう1つが資金調達だ。ちょうど同じ頃、日本でも再びベンチャーキャピタルがスタートアップへ投資をする流れが復活し始めた。松本氏も2011年から2012年にかけて40社ほどの投資家にアプローチし、最終的に2012年にシリーズAで2.3億円の資金を調達する。

当時抱えていた課題の解決や今後の継続的な成長を見据えると、Eコマースモデルに変換する必要がある──。これを機に、ラクスルは以前から温めていたモデルへと転換することを決断。水面下で準備を進め、2013年3月に印刷シェアリングプラットフォームのラクスルとして再スタートを切った。

「マーケティング、組織、生産」ラクスルの成長を支えたポイント

ラクスルはその後もシリーズBで15.5億円(2014年)、シリーズCで40億円(2015年)、シリーズDで20.5億円(2016年)と約5年で80億円近くの資金を調達しながら事業を一気に加速させていくことになる。特に松本氏が成長ドライバーになった要素として挙げるのが「マーケティング」「組織」「生産」の3点だ。

シリーズAの段階ではPMF(プロダクトマーケットフィット)に向けてビジネスモデルとサプライチェーンを磨き込んだ上で、サービスのユニットエコノミクスの検証に力を入れた。初期のマーケティングチャネルはデジタル広告が軸。仮説検証を繰り返した結果、「デジタル広告にいくら投資をすればどれだけ伸びるか」を高精度で予測できるExcelモデルが完成していたという。

一方でシリーズB以降は成長角度を上げるべく、当時のスタートアップとしてはまだ珍しかったテレビCMに踏み切ることを決断。そのために15億円を超える大型の資金調達を実施した。

後にノバセルとしてテレビCMに関するプロダクトを開発するほど、ラクスルにとってCMは重要なチャネルとなっている。テレビCMへの挑戦はラクスルの成長を加速させ、明確な転換点の1つになったと松本氏は振り返る。

事業が拡大すれば組織の強化も必要になるが、ラクスルも多くのスタートアップが経験するのと同様に、組織拡大においては苦い経験もした。

「マネジメントの体制なども十分に確立されていない中でメンバーがかなり疲弊をしていった結果、短期的に離職率も上がってしまっている状態でした。実はこのタイミングでマネジメント層のメンバーがガラッと全員替わるという経験もしていまして、組織としては非常に痛い記憶でもあります。ただ現在から振り返ると(当時参画したメンバーが重要な役割をになっているので)、大きな転換点だったと感じています」(松本氏)