「事業をスタートするタイミングでは細かくマーケットリサーチをするよりも、そもそも何の問題を解決するのか、マクロな観点から『構造的な課題を抱える領域』を見定めた方がいいと思っています。結局、外から調べて見えることってあまりないんですよね。やってみて初めて見えることの方が断然多いです」(松本氏)

松本氏自身も印刷業界でサービスを立ち上げるにあたっては、細かいヒアリングやリサーチはしなかった。もちろん現在と比べると状況は全く異なるものの、たとえば印刷通販の「プリントパック」の存在なども詳しくは知らなかったという。

一方で、いざ事業をやると決めた後は徹底的に解像度を高めることを意識した。

「基本的に顧客は常に複数の選択肢を持っていて、その上でどのサービスがいいのかを判断します。事業者ごとの差を知らずにサービスを提供していては、顧客から選んでもらうことは難しい。顧客がなぜそのサービスを選んだのかを徹底的に掘り下げながら、(業界や顧客への理解を)突き詰めていく必要があります」(松本氏)

100社以上の印刷会社を訪問、作業着をまとい現場を体験

では解像度を高めるために何をするべきか。松本氏の場合は「とにかく現場を回った」という。

サービス立ち上げ前に印刷会社を100社以上訪問し、担当者に話を聞くだけでなく、実際に自ら印刷機を回してみた。自分自身が現場に入り、細かいオペレーションも含めて一連の流れを体験することが重要だと考えたからだ。

印刷会社で働く人の目線では、どのようなオペレーションが存在しているのか。俯瞰的に印刷会社の経営者の視点で見るとどのような課題があり、1つ1つの課題がどのように繋がっているのか──。そのように業界への解像度を高めながら、ラクスルのアイデアを深めていった。

「話を聞くよりも現場を見る。そして現場を見るよりも実際に体験する。百聞は一見に如かずではないですけど、実際に作業着を借りて印刷の現場で作業をしてみることを意識的にやっていました。当時から『解像度は現場以外では培われない』と思っていたので、それを1社ではなく10社、20社と重ねていく。流石に全部の会社でそこまでやったわけではありませんが、100社以上に話を聞いて、現場を見学させていただくということに対して時間をかけて取り組みました」(松本氏)

「売れるものを作ることが重要」印刷通販の価格比較サイトから始めた理由

創業翌年の2010年4月、ラクスルは印刷通販の価格比較サービスサイト「印刷比較.com」を立ち上げた。当時は現在のEコマースモデルではなく、シンプルな価格比較サイトからのスタートだ。