サービス案を決めるにあたっては、最初から1つのアイデアに絞るのではなく価格比較サイトとEコマースサービスを同時に小さくローンチし、検証した。
印刷会社と顧客の間に立つプラットフォームを作ることは決めていたが、双方を取引で結びつけるのか(Eコマース)、情報で結びつけるのか(比較サイト)。事前にあれこれ考えすぎるよりも、実際に顧客から使われた方にフォーカスすることを決めた。その結果、より売れたのが価格比較サイトだった。
松本氏が考えていたのは「売れるものを作ることが重要であり、良いものとはお金を払ってもらえるものである」ということ。比較サイトは初月から100万円ほどの広告収入を得ることに成功するなど、規模は小さいながらも顧客に対して価値を提供できていた。
2010年当時は、起業家も「青年実業家」と言われることの方が多く、ベンチャーキャピタルなどの投資家からスタートアップへ流れるリスクマネーがほとんどない時代だ。Amazonやアスクル、MonotaROなど他業界のプレーヤーを見ていても、Eコマースで強い事業を作るには何十億、何百億レベルの資金がないと難しいという実感もあった。
その点でも、大きな資本がなくても始められる価格比較サイトは理にかなっていたわけだ。
比較サイトからEコマースプラットフォームへの転換へ
その後サービス名の変更(2010年9月に印刷比較.comからラクスルへと名称変更)やリニューアルを加えながら「印刷のポータルサイト」として少しずつ認知度を広げていったラクスルは、2012年から2013年にかけて1つの転換点を迎える。
現在のEコマースモデルへのアップデートだ。前提として、松本氏は早い段階から比較サイトモデルでは継続的な成長が難しいと感じていたという。
比較サイトの主な収益源は印刷会社からもらう広告費だが、印刷業界は基本的にセールスが顧客獲得手段の主流となっているため、販促費にはそこまで予算を割かない企業が多い。
これが食品や化粧品領域であれば、メーカーが販促費に大きな投資をするため、広告費をもらうモデルでも十分に成立しうる。ただ印刷においては、この事業のみを展開していても解決できる問題の大きさが限定的であると松本氏は考えていた。
事業モデルの転換には、2つの出来事も影響していたという。1つはサービスが拡大する中で、比較サイトモデルであるが故の課題に直面し始めていたこと。
その頃には月に400〜500万円の広告費を獲得できるサイトにはなっていたが、一方で取引件数が増えるに伴い「仕事を請けたのにお金を払ってもらえない」「発注したものの印刷の品質が悪い」といった決済や品質に関する相談が増えていった。