筆者がレギュラーコメンテーターを務める朝のラジオで本件について、「単純に税率を引き上げるだけであれば格差是正の機能はなく、単純に国民の税負担が増すだけだ」と否定的な発言をしたところ、多くの批判を受けた。

筆者は批判的な意見は積極的に目を通すようにしており、それを受けて深く自省することも多いが、本件については腹落ちするような批判はなかった。むしろ、「富裕層だから本件に否定的なのだ」というレッテル貼りをされ、罵詈雑言を浴びるような内容が多くを占めた。

日本では2003年から「貯蓄から投資へ」という標語が掲げられ、投資人口は着実に広がりを見せている。老後2000万円問題(編集部注:夫婦が夫65歳、妻60歳から年金生活を送る場合、30年後まで生きると想定すると老後資金が約2000万円不足するという金融庁の金融審議会の試算に端を発する物議のこと)などを提示されれば、自己防衛として資産運用を始める人が増えるのは当然だ。

仮に金融所得課税の税率を一律で引き上げれば、たしかに富裕層からお金を吸い上げることは出来るかもしれないが、同時に将来のためにコツコツと投資をしているような会社員などの個人投資家も同様に税負担が大きくなる。

ちなみに、富裕層であれば租税回避のノウハウもあれば、税負担に対応するためにお金も時間も使うことは可能だが、多くの個人投資家は税率が引きあがれば甘受する以外の選択肢はないだろう。格差是正は重要な課題であり、そのために分離課税を廃止したり、一定金額以上の金融所得に対しては累進課税を適応するという案であれば十分理解できる。

ただ、単なる一律の税率引き上げを歓迎している人たちはルサンチマン(嫉妬心)に支配されて冷静な判断が出来ていないのではないか。

富裕層からお金を吸い上げて、そのお金を低所得者層や中間層に分配して経済全体を底上げするのだから、格差是正になる──SNSでそういう主張を掲げる人たちの日頃の発信を見てみれば、「税は財源ではない」、「政府は無能」という主張が多い。

なぜ、本件についてのみは格差是正の財源が「富裕層から徴収した税金」で、政府が「期待されている動きをする有能な主体」であると信じているのか、筆者として理解ができないのだ。

ベンチャー企業にも大きな影響を及ぼす課税の見直し

金融所得課税の見直しは、必ずしも個人投資家や富裕層だけに影響がある訳ではない。たとえば、ベンチャー企業およびその周辺業界へも大きな影響があろう。筆者も複数のベンチャー企業の経営に参画しており、エクイティファイナンスの際には多くのベンチャーキャピタリストとも対話をし、最近では人材採用にも足を踏み入れているからこそ、強く懸念するのだ。