──どんどんアイデアがわいてきますね。

よく「直感力」っていうじゃないですか。先日、福岡の糸島まで行ってAppleのエンジニアを辞めてコーヒー豆をグラインドするマシンを開発したヤバい人に会って話しました。彼とは意見が一致したんですけど、精度の高い直感力の裏には、膨大なインプットと経験の蓄積があるんですよ。

僕らはコロナ禍の1年半だけでもいろいろな試行錯誤をしながら、自分たちの経験から直接学んできた。その経験値から瞬時に「こういう時はこうだよね」という直感が算出されるわけで、入力される経験の数が10なのか1000なのかで直感の精度は変わるはず。僕がどんどん新しいことを始めるのは、インプットを圧倒的に増やしたいからなんです。チャレンジの経験だけじゃなく、人に会って話を聞いて人の経験からも学びたいなと思っていますね。

──週に何人くらいの人に会って話を聞いていますか。

平均して1日に4人か5人は会っているはずなので、週に25人くらいじゃないですか。ということは、月100人。僕にとっては見聞きするものすべてがインプットなんです。

例えば、店で出されたコップ1つとっても「触った感じが心地いいな。どんな素材なんだろう」と意識を向ける。24時間、神経を集中。うちのメンバーにも「呼吸するようにインプットしよう」と言っています。

──鳥羽さんから次々に繰り出されるアイデアを確実に実行できる海賊団がやはり重要ですね。

だからこそ、僕自身がチャレンジする姿勢を見せることが大事だと思っていて。店はあくまでショールームなんです。僕のビジョンがどういうものなのかを見せる場所が店舗です。

店の料理や皿、店舗の構えやスタッフの応対すべてで、「鳥羽さんが言っている『幸せの分母を増やす』ってこういうことか」と体感してもらえるミニマムなショールームなんです。

これから僕らがファストフードの基準値を上げる取り組みをどんどんしていくと、カジュアルなシーンでもっとたくさんの人と接点を持てるようになる。すると、「おいしいな、これ。今度、代々木上原の店にも行ってみようかな」と思ってもらえる導線にもなる。これからのシェフの生き方は、この2軸のトラフィックをつくることだと思うんですよ。

「食のAppleを目指す」──ミシュランシェフ・鳥羽周作氏が考える、料理業界とシェフのアップデート

「シェフ=料理をつくる人」ではなくなる

──鳥羽さんがずっと試行し続けている「シェフのキャリアのアップデート」ですね。

そうです。これからのシェフはクリエイターであると同時に、クリエイティブディレクターとして評価される存在になるべきだと思っています。