──たしかに、おいしい外食を楽しんだ後は「このまま寝てしまいたい」と思うことがあります。

そうですよね。これまでは1日1組限定のオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)などが受け皿になっていたけれど、僕はその幸せを味わえる人を1日50組、100組といった規模まで増やしたいと思っています。

いま、イメージしているのは「ホテルズ京都」「ホテルズ福岡」「ホテルズ大阪」「ホテルズ北海道」のように各地に広げていくこと。それぞれの土地の魅力を生かしたアレンジをどんどん加えていただきたいんですけれど、ベースとなる料理の基準値はしっかりと押さえておく。要は、「ココイチ」(カレーハウスCoCo壱番屋)モデルなんですよ。

ベースとなるカレーの味がいいから、トッピングの余白を楽しむ価値が高まって、結果的に商品の単価も上がっていく。

僕がやりたいのも、突き詰めるとココイチです。世の中の日常食のベースを一段上げるプラットフォームになりたい。ホテルズもオープンして、4日しか経っていないですけど(10月5日の取材時点)、僕、気づいたんです。僕がやりたかったのは「食のプラットフォーム」をつくることだったんだ、と。

ミシュランシェフが「料理のレシピ」を公開する理由

──「食のプラットフォーム」になるとは、どういうことでしょうか。

例えば、僕が唐揚げや目玉焼きなどの作り方をYouTubeにアップしているじゃないですか。周りの人たちに「よくそこまで見せるね」と驚かれます。たしかに、星付きのシェフがレシピを無料公開するなんて、これまでは考えられないことだったんですよね。

でも、それを見た人がウマい唐揚げを作れて幸せになれば、最高じゃないですか。世の中の食のベースを上げる価値って、そういうことだと思うんです。幸せになる人が増えたら、マネタイズも簡単になるんですよ。

結局、楽しいこと、うれしいことにみんなお金を払いたいわけだから。

言ってみれば、僕が作ってみせる唐揚げは“iPhone”です。同じ電話という機能を持つ“携帯電話”はそれまでにもあったけれど、格段に使いやすくてカッコよくて、それを手にするだけでワクワクする。Appleはそんな価値を提供しているんです。

それと同じように、「Appleが唐揚げ作るとしたら、こうでしょう?」「はい、次はApple餃子です」といったようにワクワクする料理の作り方を示し続けることが、食のプロである僕たちがやるべきことかな、と。

──これまで「シェフの技」はレストランの奥に隠されていて、なかなか外には明かされないものでした。真逆のアプローチですね。