森川氏は「実際にブロックチェーン関連の経済規模が大きくなってきた実感もある。以前から思い描いていた理想に急激に近づいた感覚があります」という。

ブロックチェーンを巡り、国内外で今、どんなことが起こっているのか。また、Gincoはその中でどのような成長戦略を描き、どんな未来を目指しているのか。森川氏に聞いた。

導入を宣言している間はまだ「浸透した」とは言えない

Gincoでは2017年の創業以来、ブロックチェーンサービスを開発・提供してきた。また森川氏自身は、京都大学在学中の2015年ごろからブロックチェーン技術を活用したプロダクト開発などに取り組んでいる。

その根底にあるのは、「活版印刷以来の記録手段の大発明であり、人類が持つ『信頼する』という機能を拡張・進化させるほどのインパクトを持つ」ブロックチェーン技術を、社会に実装し、インターネットと同様、誰もが使えるインフラにしたいという思いだ。

森川氏はブロックチェーン技術について、気づけば世の中に浸透していた、というかたちで広がるだろうと次のように述べている。

「AIが登場したときにも、『ドラえもん』のような、未来の夢の技術という取り上げられ方をしました。今ではそうした熱のようなものはいったん収まって、AI技術を使ったサービスをみんなが使っています。カメラの加工アプリでもスマートフォンの顔認証でも、あるいは書類スキャンでのOCRによる読み取りにもAIが使われています。そういうかたちで技術は浸透していき、なかった頃には戻れなくなっていく。同じようにブロックチェーンも技術が“染みだして”浸透していくはずです」(森川氏)

現状では「ブロックチェーン技術を使おう」と宣言して導入する企業がほとんどだと思われる。だが「わざわざ宣言をして使わなければならない状況では、まだ技術が『浸透した』とは言えない」という森川氏には、企業や個人が技術をより取り入れやすくするために、テクノロジーとサービスの間を取り持つ存在が必要との思いがあった。

「私がビットコインと出会ったときには、暗号資産の普及がまず最初にあって、それをベースとして決済やさまざまなサービスが変わっていくだろうと考えました。今のDeFiにつながるものです」(森川氏)

森川氏は当時「ブロックチェーン技術のコンセプトからいって、暗号資産においても、個人情報のようなデータにおいても、中央集権型の管理からピアツーピア(P2P)の個人主体で情報を管理していく方向へ今後シフトしていく」と考えていた。そうした個人管理主体の時代に必要な、非集権型の“銀行”を目指して創業したのがGincoだった。