Gincoではまず暗号資産の管理がブロックチェーンの普及には重要だと考え、ウォレットアプリ「Ginco」を開発。ちょうどその頃は取引所のハッキングが起きるなど、暗号資産の適切な管理やサイバーセキュリティ上の備えに目が向いた時期でもあり、ユーザー数は増えていった。

ただ日本においては、お金の動きをベースにしたブロックチェーン技術による変化はさほど大きなムーブメントにはならなかった。それには「規制」の存在が影響している。

「いわゆるWeb3やDeFiの方向へ突っ切っていくには、規制は逆風となります。個人向けのtoCサービスだけを展開していては、ビジネスとしては難しい。そこで、私たちは暗号資産とブロックチェーン技術を活用した事業を営む企業に技術力を提供する、toBの方向へシフトしました」(森川氏)

Gincoは2018年末から2019年初頭にかけ、ターゲットを暗号資産交換業者やNFTゲームの事業者などの企業に定め、インフラとしてのブロックチェーン技術を提供していくようになった。

「ウェブサービスで、たとえばクラウドサービスでいえばAWSやAzure、GCPがやってきたような役割が、ブロックチェーンでも重要になると見ています」(森川氏)

ブロックチェーン市場でGincoが目指すポジション
ブロックチェーン市場でGincoが目指すポジション

ペイン解消型で考えると日本でのブロックチェーン普及は難しい

海外では前述した米国のスタートアップ・Alchemyなどが、インフラとしてのブロックチェーンサービスを提供する。Dapper Labs(ダッパーラボ)やCryptoPunks(クリプトパンクス)といったNFTゲーム事業者や、DeFi事業者のためのインフラを彼らが支える。

だが日本では、まだWeb3やブロックチェーン関連のサービス開発を行う企業は少ない。また、AlchemyはAPIベースで開発ツールを提供するが、日本ではAPIだけがあっても、それを使えるデベロッパーも事業もほとんどない。

そこでGincoは、ブロックチェーン基盤をAPIベースで提供しつつ、さらにシステムインテグレーター的な開発支援や、業務用システムパッケージの提供も行っている。

ブロックチェーン基盤の上で各種サービス、パッケージを提供するGinco
ブロックチェーン基盤の上で各種サービス、パッケージを提供する

日本で、暗号資産以外の領域でブロックチェーン活用がなかなか進まないのは、なぜだろうか。森川氏は「日本はペイン(課題)解消型、ソリューション型の事業づくりには強いが、ペインの解消から事業や活用法を考えようとすると、ブロックチェーン普及は難しいのでは」と指摘する。

「日本では『銀行インフラが弱いからブロックチェーンを使いましょう』といった話にはならない。中央銀行がデジタル通貨を発行するCBDC(Central Bank Digital Currency)をやるほどには、日本は困っていないわけです。海外との為替取引や輸出入での決済では考慮の余地がありそうですが、国内だけで見れば、どうしてもブロックチェーン技術を取り入れなければならないペインはありません」(森川氏)